科研費(文科省・学振)獲得実績 - 市川 桂
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デンマークの学力テストを支える学力観と評価観ー義務教育修了試験に焦点をあてて
研究期間: 2022年04月 - 2025年03月 代表者: 市川桂
基盤研究(C) 研究代表者 22K02327
デンマークでは、全国学力テストが導入および実施されている。中でも注目すべきは、9年生対象の義務教育修了試験が口頭試験を含めて行われているということである。子どもが義務教育の中で身につけるべき力として、他者とのコミュニケーションを通じて自らの考えを深めていくことを掲げ、解答がひとつではない課題に取り組む能力を測定するという実践は、これからの社会における学力テストの在り方をどのように考えるのかということについての指針となり得る。
本研究は、デンマークにおける学力テストの事例の背景にどのような学力観や評価観があるのかということ、および、学力測定の方法を明らかにするものである。 -
越境通学児童の実証的比較研究-国境の透過性および国民形成との関係を中心に-
研究期間: 2022年04月 - 2026年03月 代表者: 森下 稔
基盤研究(B) 研究分担者 23K22245
ボーダレス化が進んだ世界において、いくつかの国境・境界地域では、隣国の学校に毎日越境して通学する児童が存在する。本研究では、そうした事象がなぜ生じているのかを境界研究(ボーダースタディーズ)の分析法を用いて解明しようとするものである。そもそも国家が初等教育や中等教育を提供するのは自国の国民形成のためであるが、越境通学児童は国民形成とどのような関係になるかも解明する。越境通学を決断するにあたっては、人びとは比較教育を実践していると言えることから、各地の越境通学を比較するための理論的分析枠組みを構築しようとする。
本研究課題の目的は、ボーダレス化が進んだ世界においていくつかの国境・境界地域では隣国の学校に毎日越境して通学する児童の存在について、境界研究(ボーダースタディーズ)の分析法を用いて、①越境通学児童の事象が生じる背景や要因を国境・境界の透過性の変動の観点から解明すること、②越境通学と国民形成とがどのような関係になるかを解明すること、③越境通学児童の比較教育実践を調査対象とする4地域で比較するメタ比較に取り組み、越境通学児童に係る理論的分析枠組みを構築することである。
本研究課題を推進するために、第1年度にあたる2022年度は、研究代表者の他に研究分担者6名、研究協力者9名の協力を得て実施した。採択の結果を受けて、研究活動に確実に着手するため、研究期間前の2022年3月に研究代表者・研究分担者によるオンライン会議を実施した。また、2023年2月には、研究協力者を加えて第1回打合せ会議を東北大学において実施し、研究計画および成果の共有・集約を図った。その結果を踏まえて、越境通学児童に関連する特集を『境界研究』誌の特集として公表した。
当初計画では、コロナ禍で海外における現地調査が困難であることを踏まえて、現在までの研究成果を研究メンバー間で共有し、次年度以降の調査のための準備をする計画であったが、渡航制限の緩和により、次年度に計画していた現地調査の一部を実施できた。実施できた地域は、アメリカ・メキシコ国境、タイ・ミャンマー国境のタイ側、タイ・カンボジア国境のタイ側である。いずれも、コロナ禍により国境の透過性が低くなり、オンラインなどの遠隔授業により対応されていることが確認された。ただし、渡航や現地での活動には制約が大きく、次年度調査に向けて予備的調査の段階に留まらざるを得なかった。
当初計画では予定していなかった海外における現地調査に一部着手できたことは、当初計画を上回っていると言える。ただし、現地における調査活動の制約が大きく、十分な調査が実現できたものではない。また、当初予定していなかった『境界研究』誌における特集に取り上げられたことも当初計画を上回る成果と言える。
なお、国際便の航空券代の高騰が著しく、申請時の見積もり額を大きく上回る支出を要したことから、他の経費の執行に影響があった。具体的には、打合せ会議への国外研究者オンライン招へいを見送ったこと、ならびにホームページ開設を延期した。そのため、遅れている面もあった。
以上のことから総合的に判断して、おおむね順調に進展していると考えられる。
研究課題の目的を達成するため、本年度に引き続き、国境・境界地域における現地調査を柱とする研究計画を推進する。本年度に実施できた調査では、主としてコロナ禍によって国境の透過性がどのように変動したのか、また透過性の低下に伴って国境を越える越境通学にどのような影響があったか、さらには透過性の回復によってどのような実態があるかについて取り組んだ。今後は、越境通学の現象が生じる背景や要因の解明や、国民形成のための教育との関係性の解明にも取り組めるようにする。また、今後新たに加わる調査地として、日本在住の中国人研究者による中国・ミャンマー国境地域を予定するが、中国人研究者であっても辺境地域への調査目的での立ち入りには困難が予想されるため、安全に十分に配慮しながら慎重に取り組むこととする。当初計画では、越境通学の現象が確認できていない地域でも、なぜその現象が生じないのかを調査することにしていたが、国際便航空券代の高騰を踏まえ、越境通学の現象が確認できている地域における調査を優先させ、文献資料の収集・整理を主とすることとする。
同時に、各メンバーの調査研究の経験を集約・統合しながら、理論的分析枠組みの構築を目指すため、研究打ち合わせ会議を行う。これらの研究成果について、日本比較教育学会やアジア比較教育学会などを活用して、国内外の学界に発信していく。 -
北欧諸国と日本のへき地教育における自己調整的な学びと教師教育のパースペクティブ
研究期間: 2021年10月 - 2025年03月 代表者: 伏木 久始
国際共同研究強化(B) 研究分担者 21KK0036
本研究は、日本側研究者4名とフィンランド国立教育研究所メンバーをはじめとする北欧諸国の研究協力者との国際共同研究である。今後ますます少子化がすすむ中で、各国のへき地・小規模校における教育がどのように検討されているのかをフィールド調査を通して明らかにするとともに、自己調整的な学びがどのように学習指導に導入され、どのような実践的課題に直面しているのかを比較相対的に分析する。
また、北欧諸国と日本のへき地・小規模校のフィールド調査を通して、自己調整的な学びの映像データの収集とコンテンツの編集・作成を行い、それを指導する教員の養成や教員研修に有効な新たなモデルを構築することを研究目的としてる。 -
研究期間: 2019年04月 - 2022年03月 代表者: 市川 桂
若手研究 研究代表者 19K14069
デンマークでは、9年生対象の義務教育修了試験に口頭試験を含めて実施している。子どもが義務教育の中で身につけるべき力として、他者とのコミュニケーションを通じて自らの考えを深めていくことを掲げ、解答がひとつではない課題に取り組む能力を測定するという実践は、これからの社会における学力テストの在り方をどのように考えるのかということについての指針となり得る。本研究は、デンマークにおける学力テストについて(1)教育の目的、(2)教授学習の方法と学習成果の測定方法としての学力テスト、(3)教員の役割の3つの側面から実態を解明し、学力観と評価観について考察を行うものである。
デンマークでは、9年生全員が義務教育修了試験を受ける。この試験において、数学についても抽出調査ながら口頭試験が行われている。口頭試験では学習者のどのような能力を、どのように評価しているのか。能力測定の尺度はどのようなものを用いているのか、評価対象が解答の正誤だけでない場合、客観性はどのように担保されるのか。これらを明らかにするために、2020年度においては昨年度に引き続き、数学の口頭試験の概要と評価の枠組みを概観し、具体的な事例を取り上げて考察した。これに加えて、口頭試験で評価ができる教員の養成がどのように行われているかということと、口頭試験で重要な役割を担っていると考えられる外部試験官について、インタビュー調査をもとに構造をさらに分析した。
新型コロナの感染拡大によって、実際に現地を訪問して調査することはかなわなかったが、インターネットを活用して研究を推進し、成果を発表することができた。
新型コロナの感染拡大によって、デンマーク側の学校や教員、大学教員と連絡を取ることが難しい一年であったため、研究は当初予定していたよりもやや遅れている。まさか一年以上このような状況が続くとは考えていなかったが、これから先の一年も同様であると想定した上で鋭意研究を進めていきたい。
デンマーク教育省やDanish Evaluation Institute、およびNational Agency for Education and Qualityに対して、メールやWeb会議システムを通じてインタビュー調査を行うなど、現地に赴いて行う調査ができない場合でも必要な情報が収集できるように進めていきたい。 -
境界研究の分析法を用いた国境・境界地域における基礎教育に関する国際比較研究
研究期間: 2018年04月 - 2022年03月 代表者: 森下 稔
基盤研究(A) 研究分担者 18H03659
本研究では、国境・境界地域での現地調査を通じて、同地域における基礎教育の特徴的な実態やその要因を境界研究の分析法によって解明すること、および各事例の比較考察によって現代の教育事象を捉えるための新たな視座を提示することを目的としている。
そのために、調査対象国の基礎教育および境界研究に関する文献・資料を収集・整理・分析するとともに、初年度の調査結果を踏まえ、国内外の学会で研究発表を行い、それらの成果を新たに開設したホームページで広く公表した。特に、2019年6月開催の日本比較教育学会第55回大会では、課題研究のテーマとして、基調講演者に境界研究の第一人者である岩下明裕氏(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)を招待してパネルセッションを実施した。この企画が紀要編集委員会によって採用され、2020年1月発行の『比較教育学研究』第60号の特集となり、基調講演録とともに4本の論文が掲載された。
これら4本の論文内容をより充実させるために、アメリカ・メキシコ、タイ・カンボジア、マレーシア・インドネシア、タイ・ミャンマーの国境地域について重点的に調査した。さらに、ラオス・中国、フィンランド・ロシア、台湾金門島の各国境・境界地域においても現地調査に着手した。これらの調査結果や研究成果公表について共有し、その後の研究計画を確認・立案するために第3回打合せ会議を2019年9月2日、第4回打合せ会議を2020年2月23日に開催した。アメリカ・メキシコ国境については、3月に追加調査を実施した。
これらの研究動向について、『境界研究』第10号に比較教育学においてボーダースタディーズに着手した初期的な成果について論文を発表し、今後の研究への展望を提示した。
研究実績の概要に記されているように、2020年2月までは一部を除き概ね当初計画通りに現地調査を実施した。また、学会紀要特集のテーマとなったことは計画を上回る成果となった。
その一方で、中国における日本人研究者拘束事件の影響により12月に予定した中国雲南省における調査が実施できなかった。さらに、2月下旬から3月にかけて実施予定であったタイ、マレーシア、ベトナム、カンボジア、中国、台湾における調査は、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、渡航できなくなり、中止・延期となった。
そのため、全体としては、当初予定通りには進捗していないと判断されるため、やや遅れているとする。
当初予定した現地調査が困難な調査対象地域に関しては、2年度目までに収集した文献・資料を深く掘り下げて整理・分析するとともに、新たな資料等の収集に努め、渡航再開後の調査研究計画の再構築により、現地調査に備える。
また、上記の分析によって得られた学術的知見を資料等の制約があっても可能な限り、学会における研究発表や論文として公表すると共に、ホームページで広く発信する。
海外への渡航制限が緩和された対象地域から、現地調査を積極的に展開させるようにするとともに、日本国内の国境・境界地域に対象を代えることも検討する。 -
北欧からの交換留学生を対象としたグローバル教育インターンシップの開発
研究期間: 2018年04月 - 2022年03月 代表者: 原 和久
基盤研究(C) 研究分担者 18K02731
本研究は、北欧諸国から来日した交換留学生を対象とした「グローバル教育インターンシップ」を開発することを目的とする。そのようなプログラムの開発は、交換留学生の日本理解を促すのみならず、インターンを受け入れる日本の学校教職員の異文化対応能力の向上や、児童・生徒の異文化間コミュニケーション能力の増進にも寄与するものであり、グローバル社会に対応する学校教育のあり方を考えるうえで大変重要かつ意義のある研究である。
研究がスタートした2018年度には、北欧の8つの大学の協力を得ながら本学独自の交換留学プログラム「Tsuru Study Abroad Program (T-SAP)」をパイロットプログラムとして開発し、北欧の学生を対象とする教育インターンシップを国内の小・中学校にて行った。また、研究2年目となる2019年度は、前年度の研究成果を踏まえ第2回目の交換留学および教育インターンシッププログラムを開発し実施した。その結果、前年度より5名多い33名の留学生が来日し、日本の学生と共に4か月間学修に励みながら教育インターンシップに取り組んだ。
研究の最終年度となる2020年度もさらにプログラムに改善を加え実施を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大により交換留学が全学で中止となったため、北欧からの交換留学生の来学は叶わなかった。教育インターンシップの実施は延期となったが、北欧の6つの大学とはメールや遠隔ビデオソフトを使用してコミュニケーションを密にとり、コロナ収束後の再開に向けて信頼関係の維持と遠隔による広報活動に努めた。また、遠隔ビデオソフトを使用し、近い将来交換留学への参加を希望する北欧の学生と日本の学生との交流会を企画したり、教育インターンシップ受講学生を対象とした日本の教育や学校文化を学ぶ動画教材や大学周辺地域での生活を支援するガイドブックを作成するなど、アフターコロナを見据えて今後の発展の下地作りを行った。
新型コロナウィルスの感染拡大により交換留学プログラムが全学で中止となり、北欧からの交換留学生の来日が叶わなかったため。また、学会や研究会なども中止や延期となったため。
現在2021年度後期に第3回目の教育インターンシップ実施を行うべく鋭意準備中である。また、これまでの研究成果を学会や研究誌等で発表できるよう準備をすすめているところである。 -
研究期間: 2018年04月 - 2021年03月 代表者: 末藤 美津子
基盤研究(C) 研究分担者 18K02396
カリフォルニア州では、1998年に成立した「提案227」により、公立学校では原則としてバイリンガル教育が禁止され、英語を理解できない児童生徒には英語による授業が続けられてきた。だが、2016年に住民投票により成立した「提案58(カリフォルニア多言語教育法)」は、公立学校にバイリンガル教育を復活させ、さらに、英語母語話者にも英語以外の言語を学ぶ機会を保障した。
一方、この「カリフォルニア多言語教育法」の最大の課題は、バイリンガル教員不足である。公立学校で20年ほどバイリンガル教育が禁止されてきたことの負の遺産でもある。現在、カリフォルニア州はこのバイリンガル教員不足の解消に努めている。
トランプ政権の誕生と軌を一にして成立した「カリフォルニア多言語教育法」は、トランプ政権の掲げる「アメリカ第一主義」とは真逆の多言語主義を掲げていた。英語以外の言語を母語とする児童生徒には英語と母語の教育を、英語母語話者には英語以外の言語の学習を勧め、カリフォルニアを多言語社会にすることを目指していた。連邦と州のねじれを明らかにしたことは、本研究のひとつの成果である。
また、本研究では、カリフォルニア州におけるバイリンガル教員の資格がどのようなものであり、その養成がどのように行われているのかを明らかにした。こうした成果は、日本における多様な言語背景を持つ子どもたちの教育にも役立つであろう。