科研費(文科省・学振)獲得実績 - 壁谷 尚樹
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研究期間: 2022年04月 - 2025年03月 代表者: 壁谷尚樹
基盤研究(B) 研究代表者 23K23698
生理学的に重要なドコサヘキサエン酸(DHA)などの脂肪酸は、そのほぼ全てが海洋由来である。イワシやサバなどの海産魚は、微細藻類等によって一次生産されたDHAを食物連鎖を介して蓄積している。このことは海洋生態系においてDHAを自ら生産可能な生物の重要性を示している。本研究は、海洋生態系に大量に存在する小型の甲殻類であるカイアシ類を対象とし、その生態系へのDHAの供給能力を解明することを目的とする。
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安定同位体を用いたカイアシ類における多価不飽和脂肪酸生合成能の解析
研究期間: 2021年 - 2024年 代表者: 壁谷尚樹
国際共同研究強化(A) 研究代表者 20KK0348
海洋生態系では、多くの生物にとって生理学的に重要なドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)は主に微細藻類などにより一次生産されている。魚類が保有するPUFAのほとんどは食物連鎖の過程で蓄積されたものであり、一次生産者のPUFA生産量が、生態系の維持に大きな影響を及ぼす。我々は、EPA・DHAに富み、多くの消費者にとって重要な餌生物であるカイアシ類の一種が、微細藻類と同様のPUFA生合成経路を保持し、PUFAの一次生産者として機能する可能性が高いことを突き止めた。本研究では、安定同位体標識と質量分析技術を駆使することで、カイアシ類のPUFA生産能を明らかにすることを目指す。
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研究期間: 2020年04月 - 2023年03月 代表者: 吉崎 悟朗
基盤研究(A) 研究分担者 20H00430
養殖魚では、その評価が侵襲的になされる形質に着目した育種はほとんど着手されていない。対象個体の評価に伴い、その個体を殺してしまう必要が生じる場合、その次世代を生産できないことがその大きな理由である。ゲノム情報を駆使して集団選抜を行うことも理論的には可能ではあるが、これには多大なスペースと労力、コストを必要とする。さらに、親世代の集団にエリート個体が含まれていなかった場合、その効果は限定的である。本申請では、可食部のサンプリングの際に未熟な生殖細胞を単離・凍結し、エリート個体を同定した後に、エリート個体の凍結生殖細胞を代理親魚へと移植することで、エリート個体に由来する卵、精子の生産を目指す。
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持続可能な養殖業の為の無魚粉無魚油飼料開発に関する基礎的研究
研究期間: 2019年04月 - 2023年03月 代表者: 佐藤 秀一
基盤研究(B) 研究分担者 19H03047
世界の水産養殖生産量は年々増大し、特に飼料を給餌して行う給餌養殖の生産量は養殖生産量の中でも、著しく増大している。このような状況のなかで、その飼料の主な原料となる魚粉および魚油の生産量は、その原料魚の資源保護のために著しく減少傾向にある。また,魚油に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)は海水魚の必須脂肪酸であり、陸上の植物では生産できない脂肪酸である。そのため,魚油に依存する養殖用飼料を給餌し続けると,水生動物の減少や養殖生産量の増大も図れない。そこで,魚油に頼らない生産するための利用するための必要な基礎的知見の集積を行う。
魚粉を配合しない飼料に、魚油を配合した飼料、エイコサペンタエン酸(EPA)含む微細藻類のナンノクロロプシスの乾燥粉末とドコサヘキサエン酸(DHA)を産生するシゾキトリウムから抽出した油を配合した飼料をブリに給餌した結果、魚油を配合すると魚粉主体飼料と同様の摂餌、成長が得られたが、魚油を配合しないで、シゾキトリユウム由来の油脂単独、あるいはナンノクロロプシス粉末を併用配合した飼料区では、摂餌が不活発となり、成長が劣る結果となった。この結果は昨年度のマダイの結果とは異なり、ブリにおいてはEPA含むナンノクロロプシスの併用効果は見られなかった。つぎに、低魚粉飼料にゴマ油粕を配合した飼料をブリに給餌した結果、摂餌の低下は見られなかったが、成長がやや低下した。また、ゴマミールを配合したブリの可食部は調理後の変色が抑えられる傾向がみられた。これは、ゴマミールに含まれているポリフェノールの影響と考えられる。また、低魚粉飼料に配合するコーングルテンミールの色揚げに及ぼす影響をニジマスとマダイで検討した結果、コーンぐてんみーるに含まれている黄色色素のゼアキサンチン等が赤色色素のアスタキサンチンの沈着と競合し、マダイとニジマスの色揚げに影響を及ぼすことがわかった。さらに低魚粉無魚油飼料をニジマスに給餌すると筋肉中のDHA含量が低下するが、リノレン酸を含む亜麻仁油とプリン核酸を添加した飼料をニジマスに給餌した結果、ピリミジン核酸の添加とは異なり筋肉中のDHA含量が増加しないことがわかった。このことより、ピリミジン核酸が脂肪酸の代謝に影響を及ぼしているのではないかと推察された。
現在までに、マダイにおける無魚粉無魚油飼料の開発にほぼ成功した。一方、ブリでは無魚粉無魚油飼料で成長させることはできたが、魚油飼料に匹敵する成長は得られなかった。今後は、摂餌等の改善を図り、魚油飼料に匹敵する無魚粉無魚油飼料の開発を行う。以上のように、マダイでは一定の結果が得られていることより、おおむね順調に進展していると思われる。
今までに、ブリにおいて無魚粉無魚油飼料で成長させることはできたが、魚油飼料に匹敵する成長は得られなかった。そこで、成長のよかった魚油配合飼料給餌区のブリと無魚油給餌区の魚の脳のトランスクリプトーム解析を行い、遺伝子発現への影響を検討する。また、今後は無魚粉無魚油飼料の摂餌を促進すると期待される動物性飼料原料のチキンミールや昆虫ミールの配合を試みる。さらに、核酸やタウリンの添加により、より効率の良い無魚粉無魚油飼料の開発を試みる。 -
研究期間: 2019年04月 - 2022年03月 代表者: 壁谷 尚樹
若手研究 研究代表者 19K15908
カイアシ類(コペポーダ類)にはEPAやDHAといった様々な動物にとって生理的に重要な成分が豊富に含まれていることが知られている。カイアシが魚類の餌生物として非常に重要であることを考慮すると、これらカイアシ類がなぜEPAやDHAを豊富に含むのかを解明することは生態系を栄養学的な観点から理解する上で非常に重要である。そのため本研究では、カイアシ類のEPAやDHAの生合成能を解明することを目的としている。
令和2年度は、Harpacticoida目に属するTigriopus californicus、Platychelipus littoralisおよび、Cyclopoida目に属するカイアシ類の一種を主な対象として実験を進めた。前年までの各種多価不飽和脂肪酸(PUFA)生合成酵素遺伝子の単離およびその機能解析をさらに発展させ、特にT. californicusに関しては、様々なオメガ6系PUFAを対応するオメガ3系PUFAへと転換可能であることを示した。これまでの結果より、本種は網目状のPUFA生合成経路を有していることが明らかとなり、脊椎動物とは全く異なる経路によるエイコサペンタエン酸(EPA)・ドコサヘキサエン酸(DHA)の生合成が可能であることが強く示唆された。なお、以上の結果をまとめ日本水産学会にて口頭発表し、原著論文をOpen Biology誌に掲載した。また、EPA・DHAを一切含まないなど様々なPUFA組成を示す餌料を用いた給餌試験を実施し、飼育後の脂肪酸組成の解析を行なった。前年度までにT. californicusにおいて餌量の脂肪酸組成に関わらず一定のEPA・DHAを保有し続けることがすでに明らかとなっていたが、本年度はCyclopoida目に属する種においても同様に、EPA・DHAを全く含まない餌量においても常に高いEPA・DHA含量を保ち続けることが示された。特に、Cyclopoida目に属する本種はT. californicusに比べて10倍以上も高い脂質含量を示し、絶対量としてのDHA含量が非常に高い。すでに本種から各種のPUFA生合成酵素遺伝子の単離および機能解析を進めており、今後は安定同位体で標識した脂肪酸などを用いて本種含む対象種が実際にどれだけのPUFA生産能力を有するのか解析する予定である。
令和2年度は、Covid-19の流行に伴い出張等が難しくなったことや、非常事態宣言発出に伴い職員の出勤、実験をともに進めている学生の登校が一時的に禁止になったことなどが影響し、予定通りに実験を進めることが困難であった。特に、安定同位体を用いた実験では、カイアシに安定同位体で標識した脂肪酸を取り込ませるために利用するリポソームの調整にやや難航し、その後感染第三波に伴う二度目の緊急事態宣言が発出されるなど条件検討などにまとまった時間を使うことが厳しい状況が続いた。一方で、リポソームの調整については研究代表者と継続して共同研究を行なっているスペイン、トレ・デ・ラ・サルの養殖研究所のOscar Monroig氏、また安定同位体を用いた分析技術についてはPlatychelipus littoralisを用いた実験で共同研究を進めているベルギー、ゲント大学のMarleen De Troch氏に協力をお願いし、現在は円滑に実験が進められる状況となっている。そのため今後は、これまでの研究により絞り込んだ完全なPUFA生合成経路を有する種を対象として、安定同位体標識脂肪酸を用いて、実際に当該種がどの程度PUFAを生産可能なのかを明らかにする研究を進める。
令和3年度は、Tigriopus californicus、Platychelipus littoralisといったHarpacticoida目カイアシ、およびCyclopoida目カイアシを用いて、実際の生体内でどの程度のPUFA転換が起きるのかを明らかにする。特に、これらカイアシ類は脊椎動物が保持しない単価の不飽和脂肪酸(MUFA)からPUFAを生合成するための遺伝子を有していることが本研究成果により示されているため、13Cなどの安定同位体で標識したMUFAやあるいは飽和脂肪酸を当該カイアシに取り込ませ、体内での各種PUFAへの転換をGC-MSを用いて解析する。また、これらカイアシ類は様々な環境に適応することが可能であることが知られている。そこで、飼育実験として水温や塩濃度、溶存酸素量などを変化させ環境ストレスを与えたときに、当該種のPUFA転換能がどのように変化するかも解析予定である。 -
高度不飽和脂肪酸代謝酵素のアミノ酸配列置換による海産魚EPA・DHA合成能の改変
研究期間: 2015年08月 - 2017年03月 代表者: 壁谷 尚樹
研究活動スタート支援 研究代表者 15H06220