科研費(文科省・学振)獲得実績 - 牧田 寛子
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深海環境での微生物機能を用いたコンクリート材の耐久性向上に向けて
研究期間: 2022年04月 - 2027年03月 代表者: 牧田 寛子
基盤研究(B) 研究代表者 23K22965
インフラの老朽化の問題は世界中で喫緊の問題となっている。この問題は, インフラの耐用年数毎に生じるが, 経済的な損失を考えると, より耐久性のある材料を用いることや, 修復や再生が容易にできる材料の開発が重要な課題である。そこで本研究では, 海洋環境(特に深海環境)に着目し, その場に生息する微生物の機能を用いて, インフラ材料の耐久性を向上させる方法やメカニズムを解明することを目的とする。
今年度は, 深海環境でのセメント系材料の物理化学的変化や生物学的影響を明らかにするために, さまざまな組成・配合のセメントペーストおよびモルタル試験体を作成し, それらの実環境および実験室内水槽等への長期および短期間の浸漬実験を開始することができた。なお実環境に浸漬するセメントペースト試験体の配合の検討・選定は, フライベルク工科大学のBier教授の協力のもと行なった。
浸漬実験に供した試験体に繁茂した微生物叢を確認するために, まずは実験室内で実施した短期間浸漬した試験体からのDNA抽出を試みた。しかしながら, その際にセメント系材料に含まれるシリカなどが抽出に影響を及ぼすことが明らかとなり, 抽出に供する試験体の量によっては, ほとんどDNAが抽出されないことが確認された。そのため, 種々の試薬や抽出キットを組み合わせ, 最適なDNA抽出方法の検討を行った。その結果, 条件により改善効果は見られたが, より効果的な抽出方法の構築が必要であると判断し, 次年度以降も引き続き検討を行うこととした。
次世代シーケンサーによる16S rRNAアンプリコン解析により, 試験体表面に繁茂した微生物叢を明らかにし、短期間に生じた周辺環境(実験に用いた海水)から試験体表面への微生物の移動に関する知見や, 期間による試験体表面の微生物叢の遷移を明らかにすることができた。
また, セメントペースト試験体の浸漬実験に用いた溶液中のpHや各種イオンの変化の調査や, 浸漬前後の試験体のX線回折法(XRD)分析や電子顕微鏡観察を行い, 短期間での浸漬による試験体と浸漬溶液の化学的変化から微生物学的な影響を確認することができた。
今年度の目標であった, 様々な組成のセメントペースト試験体の実環境および水槽への長期および短期間の浸漬実験を開始することができた。また浸漬後実験後の試験体からDNAを抽出する手法の検討を行い, DNAの抽出方法を改善することができた。さらに浸漬したセメント系材料表面に生息する微生物叢を次世代シーケンサーにて明らかにした。
また, セメントペースト試験体のX線回折法(XRD)や電子顕微鏡観察にて, 短期での海水浸漬による化学的および微生物学的な影響を確認することができた。
今後は, 実環境等に浸漬した様々な組成・配合のセメントペースト試験体を回収し, 浸漬前後の物理化学的な変化については, X線回折装置(XRD)や熱重量示差熱分析(TG-DTA)等を用いて確認する。また, 微生物学的な影響を確認するために, 次世代シーケンサー等を用いた微生物叢の確認や電子顕微鏡による観察, バイオフィルムや炭酸塩形成等の確認を行う。さらに, 回収した試験体からセメント系材料存在環境下を好む微生物を単離培養し, それら微生物種の同定とそれらの代謝機能の確認を行う。 -
研究期間: 2020年04月 - 2022年03月 代表者: 牧田 寛子
新学術領域研究(公募研究) 研究代表者 20H04610
近年、これまで生命活動が困難であると考えられていた地球外にも、生命が存在し得る環境の存在が明らかとなってきた。特に土星の衛星エンセラダスでは、厚く覆われた氷の下に液体の海が存在し、さらに海底熱水活動を有することが明らかとなっている。また、エンセラダスは、岩石中に0価の鉄(純鉄)が含まれていると示唆されている。鉄は生物にとって重要なエネルギー源であるが、これまで純鉄を利用する微生物についてはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究では、エンセラダス内部海環境等を模した条件下で、微生物が純鉄をエネルギー源として利用できるのかについて迫り、地球外の環境において、純鉄が駆動する生命圏を予測する。
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研究期間: 2018年04月 - 2021年03月 代表者: 牧田 寛子
基盤研究(C) 研究代表者 18K04595
本研究は、微生物機能が海洋環境中でのコンクリート材への耐久性向上に有効であるかについて、その場の微生物活動を活発にするために有機物を添加した試験体を用いて、室内および実際の海洋環境下での暴露・浸漬実験により明らかにすることを目的とした。研究期間内に、試験体を低温海水水槽および実際の海洋環境に設置し、それら試験体の物理化学的変化を明らかにするとともに、それぞれの試験体に繁茂した微生物叢を確認した。その結果、試験体(によって形成された環境)に好んで生育する微生物種を特定し、試験体への有機物添加の効果と微生物機能の有効性を示唆する知見を得ることができた。
近年、海洋環境の有効利用のために海底へのインフラ構築が検討されている。しかしながら、コンクリートなどのインフラ材料の海底(特に200m以深の深海環境)での挙動は、未だ未解明な点が多く、コンクリート材を海底で使用した際の生物学的影響については貝類や魚類などの大型生物などを対象とした僅かな情報しか得られていなかった。本研究は、海底でのコンクリート材の物理化学的挙動や生物学的な影響といった海底でのインフラ構築のために重要な基盤的かつ初となる知見を提供するものであり、その学術的および社会的意義は高いと言える。 -
海洋性細菌が産生する特異な有機分子の構造解析:海水中CO2から有機物生産へ
研究期間: 2014年04月 - 2017年03月 代表者: 牧田 寛子
若手研究(B) 研究代表者 26820389
本研究では、現在の海洋環境中で行われている「生育に伴う有機高分子生産」という微生物機能に着目し、海水中の二酸化炭素を利用した物質生産の可能性、つまり光合成に依存しない海水からのCO2除去にも繋がるCO2資源化システムの構築・提案を目指した。本研究の実施によって、鉄を唯一のエネルギー源とし、海水中のCO2固定により生育する海洋性鉄酸化細菌の大量培養手法の構築、新種の鉄酸化細菌の単離、そしてそれら細菌が菌体外に産生する有機高分子の組成・構造を明らかにすることに成功した。これらの結果から、微生物機能を用いて海水中のCO2から有機物質の生産(CO2の資源化)システム構築への知見を得ることができた。
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研究期間: 2010年 - 2012年 代表者: 牧田 寛子
若手研究(B) 研究代表者 22760646
本研究は、深海底という海洋環境をモデルに微生物生態学、生化学および物理化学的な手法を用いて微生物による金属腐食(Microbiologically induced Corrosion, 以下MIC)の分子機序を明らかにする事を目的とした。研究期間内に、硫化水素を高濃度で発生させ(間接的に)腐食を引き起こす新属新種の菌の単離に成功した他、自然の金属腐食地帯である酸化鉄被膜地帯の環境中の化学成分分析および微生物調査の実施や、微生物と鉱物の相互作用を直接観測できる分析手法を確立した。
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深海底熱水活動域における化学合成微生物の共生機構を分子的に理解する
研究期間: 2008年 - 2010年 代表者: 中川 聡
若手研究(A) 研究分担者 20687003
本研究は、深海底熱水孔環境において共生関係にある微生物-大型生物の相互作用・相互認識機構を分子レベルで解明することを目的としている。特に生物間の相互認識に関わる生体分子「糖鎖」に注目し研究を進めてきた。これまでの研究において、深海底熱水孔環境に生息する共生微生物およびそのホスト生物の両者について、糖鎖の発現解析・プロファイリング・構造解析を行い、両者の相互認識・相互作用に寄与する可能性の高い特異な新奇糖鎖を見いだすことに成功した。