科研費(文科省・学振)獲得実績 - 北出 裕二郎
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海嶺上における内部風下波の発生を組込んだ乱流ホットスポットのグローバルマッピング
研究期間: 2022年04月 - 2026年03月 代表者: 日比谷 紀之
基盤研究(A) 研究分担者 22H00172
深海乱流は表層からの熱を下層に伝えて深層水に浮力を与え、表層に持ち上げることで、深層海洋大循環の形成と強くリンクしているが、毎秒約2千万トンといわれる深層海洋大循環の流量を定常的に維持するだけの深海乱流強度は未だ見出されていない (Missing Mixing)。
本研究では、潮汐流の振幅が大きくなってくると高波数の海底凹凸地形上では内部風下波が励起されるようになり、従来考えられてきた内部潮汐波と比べ、はるかに多くの潮汐エネルギーをより鉛直上方の乱流混合過程に供給することができるという、従来全く見逃されてきた事実に注目し、Missing Mixing 問題の解決を目指す。 -
研究期間: 2020年07月 - 2024年03月 代表者: 北出 裕二郎
挑戦的研究(開拓) 研究代表者 20K20634
本研究は、海洋ビッグデータを活用し、流れで受動的に移動する昇降式フロートによる観測を、計画的に流れに乗せて移動させ、能動的に観測するためのアルゴリズムの開発を行う基礎研究である。予定通りにフロートを移動させるには、高分解能・高精度の3次元流速情報が必要である。そこでまず、海面漂流ブイの追跡実験から衛星海面高度生データの最適補完法を開発し、その高分解能海面高度データと海洋観測ビッグデータを組込んだ数値モデルにより3次元流速場を推定する。次に、昇降式フロートを用いた3次元漂流実験を行い、流れ場の検証と移動予測を行う。さらに、適切な深度にフロートを待機させて目的地に導くためのアルゴリズムを開発する。
本研究は、海洋ビッグデータを活用し、水平的に移動する機能を持たず流れで受動的に移動する昇降式フロートによる観測を、計画的に流れに乗せて移動させ、能動的に観測するためのアルゴリズムの開発を行う基礎研究である。フロートを計画通りに移動させるには、高分解能・高精度で3次元流速を推定する必要がある。本研究は、衛星海面高度の高分解能補間アルゴリズム開発、高分解能モデル開発と高精度化、フロートの現場実験による検証に分かれており、最終的に組み合わせてフロートの最適な昇降制御アルゴリズムの開発を行う。
2021年度は実験用昇降式フロートの製造が遅れていたことから、当該経費とは別経費の所属機関経費で購入した自動昇降式フロート2基を用いた実験を先行的に実施した。2021年10月上旬に海鷹丸によりフロート2台を黒潮流域に投入し、待機深度調整による実験を実施した。この実験は当該課題の最終年度まで続ける予定である。実験の結果、同地点に投入した2つのフロートは100㎞以上離れるという全く異なる経路を漂流し、その後互いに近づくという挙動を示した。週に1回程度の計測とデータしか得られていないため、今後も継続した実験とデータの蓄積が必要である。
再現モデルの開発においては、この異なる経路を再現するようにHYCOMのデータを境界条件とする数値モデルのチューニングの実施を始めた(継続中)。
一方、船舶による現場実験の実施が困難な状況が想定されたため、これまで当該研究室において多くのデータが蓄積されている南大洋で得られたデータの解析から、自動昇降式フロートの漂流の評価と海洋物理現象との整合性の研究や物理現象と係留データとの整合性の研究を実施した。また、フロートの動きが海洋中規模渦の構造に大きく作用されることから、南大洋の渦運動の特徴をEKEの変動形態により評価した。これらの成果は投稿論文あるいは修士学位論文としてまとめられた。
コロナ禍における諸々の事項と関連して、現場実験の中止や遅れがあり、特に以下のような遅れが生じている。
(1)実験用の昇降式フロートを発注したが、機器製造会社で部品を調達できず機器の製造が8カ月程度遅れている。当該物品は2022年6月上旬納品予定となっている。(2)海面漂流ブイの現場実験の実施に当たり海鷹丸に乗船したが、入港等に関連した規制により対象海域まで行くことができず現場実験を断念した。
現場実験に関して、これまで同一の海域で同時に実施することを想定して計画を進めていたが、成果として得られるアルゴリズムは汎用性があると考えられるため、現場実験はそれぞれ実施できる海域で適宜実験を行い、アルゴリズムの集約により海洋モデル、漂流モデルを改善していくこととする。これにより遅れている現場実験を同年度に並行して実施可能であると期待できる。
海面漂流ブイの実験はこれまで蓄積されたデータが多くある南大洋にて実施し、衛星海面高度から地衡流として推定される流れとの比較を行う。高解像度で海面高度を評価するためのアルゴリズムの開発を行う。このアルゴリズムは、漂流再現モデルのもとになる海洋モデルの境界条件をして適用する。
2022年度6月に納品が予定されている昇降式フロートを用いた現場実験を実施する。実施海域は黒潮流域で、東京海洋大学の神鷹丸により7月から8月に実施することを想定している。
2021年度から継続して漂流再現モデルのチューニングを行い、再現精度が改善され次第、そのモデルをもとにしたフロート昇降制御の最適化アルゴリズム開発に移行する。 -
研究期間: 2017年06月 - 2022年03月 代表者: 大島 慶一郎
新学術領域研究(計画研究) 研究分担者 17H06317
2019年2020年に行われた白鳳丸による海洋観測・係留系観測の全データのキャリブレーションが完了し、ケープダンレー底層水の流量や熱塩フラックの見積もりを開始した。また、ケープダンレーポリニヤ域での栄養塩と炭素の季節変化と収支を見積もった。CFCs及びSF6の解析と数値モデルシミュレーションからの知見を合わせることで、底層水の年齢を推定する新たな方法を確立した。この手法によって、底層水の広がり・循環時間スケールや混合過程を定量化することが可能となる。2018/19年シーズンに南大洋インド洋・豪州セクターで行われた開洋丸航海からは 20 年以上続いていた南極沿岸の塩分低下が 2010年代後半に増加に転じていたことが明らかになった。これはロス海あるいはその「上流」にあたるアムンゼン海方面の氷床の変化や気象条件の変化が伝播したものと考えられ、氷床変化と深層海洋変化が数年程度の時間スケールで連動していることを示している。トッテン氷河周辺海域においては、第61次南極地域観測隊しらせによる大規模観測の結果を、これまで蓄積した資料と併せて解析した。大陸棚縁は比較的深く、トッテン氷床側に深い窪地が広がり、氷床縁辺部は深い谷が多数存在する浅い地形をなす、というこれまで知られていなかった地形の全体像を明らかにした。海洋下部には、沖側起源の暖水が存在するいっぽう、上層ではモスクワ大学氷河なども含む氷河からの融解水が、複数の経路を通って流入、流出する状況を明らかにした。海鷹丸の観測と衛星による海面高度の解析を組み合わせた研究からは、トッテン沿岸域に熱が供給される機構として、低気圧性の渦列が変質周極深層水などの暖水を沿岸域に輸送する実態が示された。なお、コロナ禍により、海鷹丸による2020年度の南大洋観測航海は中止となった。
2018/19及び2019/20のシーズンは、4船を南大洋インド洋海域に集中させて観測を行うという、かつて例のない観測集中シーズンとしたが、ほぼ予定されていた観測ができ、観測に基づいた成果も出つつある。開洋丸での観測結果は論文としても出版されている。西南極の氷河融解の増減が南極底層水の性質や生成量にリンクしているという、本境域の核心に迫る研究成果も論文として出版された。本領域が始まってから、東南極で最大の融解加速海域であることが判明したトッテン氷河周辺海域を集中観測海域として研究を進めてきたが、しらせや開洋丸により、両者の連携も含めて、ほぼ予定されていた観測ができ、その解析も順調に行われており、一部は論文に投稿中である。
2年間にわたる南大洋インド洋海域での集中観測の成果をまとめ、論文化することに集中する。当グループに関係する主な航海観測はコロナ禍の直前に完了したので、大きな問題はなかった。2020/21年シーズンの観測はすべてキャンセルとなったため、一部係留系の回収ができていない部分があるが、2021年度はしらせや海鷹丸の観測により、最終年度ではあるが回収を計画している。ダンレー沖で回収された係留系にはセジメントトラップ等も装備されており、周辺での海底コア解析の研究と合わせて、古海洋班との連携研究も推し進める。また、モデル班との連携により、ターゲット海域での海洋モデル研究と観測研究の融合研究を推進する。2020年度にNature Communicationsに掲載された、海洋による白瀬氷河融解の論文のような融合研究を他の海域でもめざす。 -
南極底層水の昇温・低塩化に伴う深層大循環の変貌予測に関する基礎研究
研究期間: 2015年04月 - 2019年03月 代表者: 北出 裕二郎
基盤研究(A) 研究代表者 15H01726
近年、地球温暖化に伴い南極底層水が昇温・低塩化している。本研究では南極底層水が変質する機構を解明し、今後、深層大循環がどのように変化するかを明らかにすることを目指した基礎研究が実施された。4年間にわたり毎年1月の約1ケ月間、南大洋東経110度に沿った海洋観測、および長期係留系の設置・回収を継続して実施した。その結果、南極底層水の形成における貫入深度の季節的変動特性や子午面方向の物資輸送の主要な機構を明らかにした。さらに、南極氷床溶融水が南極底層水の変質に及ぼす影響を評価した。また、子午面循環の鍵を握る中規模渦の監視技術として、海氷域における衛星海面高度データの補正アルゴリズムの開発が行われた。
本研究では、南極底層水の変質機構の解明と深層大循環を捉えるため、無数のセンサーを配備した巨大係留系が構築され、南大洋に設置された。南大洋でのこのような観測は類を見ない。結果、冬季海氷下での深層水や底層水の生成と変動が明らかにされ、子午面循環の構造とそれを維持する機構について、実測から立証するためのデータが得られた点は、学術的な意義がある。また、季節海氷域での海面変位の補正アルゴリズムの開発は、衛星データによる流速推定の精度を向上させ、水位上昇の波及など極域海洋の監視能力を強化させる。その他、4年間の観測を通して得られた基礎データは、大循環モデル・気候変動モデルの精度向上に貢献する。