科研費(文科省・学振)獲得実績 - 遠藤 英明
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次世代に向けた魚類のためのスマートバイオセンシングの創出に関する研究
研究期間: 2021年04月 - 2025年03月 代表者: 遠藤英明
基盤研究(B) 研究代表者 23K21235
本研究では,次世代の魚類の生体計測を念頭に,生体内情報の可視化,計測,伝達を可能とするスマートバイオセンシングシステムを創出することを目的とする.特に,魚の生理状態を把握するために要望が高い測定項目(ストレス応答の測定,抗病性の評価,産卵時期の予測,雌雄の判別等)に焦点をあて,これらの計測情報をヒトにわかりやすくリアルタイムに伝達できる新しいシステムの構築を目指す.
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魚の生理状態の可視化と測定:双方向通信技術を用いた魚類のためのバイオセンシング
研究期間: 2017年04月 - 2021年03月 代表者: 遠藤 英明
基盤研究(B) 研究代表者 17H03871
本研究の目的は,双方向通信技術を用いて,遊泳している魚の生理状態を目視により簡単に判別でき,さらに指標物質となる各種パラメーターを定量的にリアルタイムモニタリングできる新しいバイオセンシングシステムを創出することである.今年度は,魚類の生理状態を把握するための各種バイオセンサシステム(ストレスの一次応答測定,魚病診断)の製作および双方向通信回路の基本設計を行った.
まず,ストレスの一次応答を測定するために新しいコルチゾル測定用バイオセンサの作製を行った.本研究では,将来的にバイオセンサを魚体内に留置することを計画しているため,生体にやさしいセンサシステムの開発を試みた.我々がこれまでに開発したコルチゾル測定用センサは,電子メディエーターにフェリシアン化カリウムを用いていたため,生体への毒性が懸念されていた.そこで,センサの測定系に抗-コルチゾル抗体と共に酵素(グルコースオキシダーゼ)を用いることにより,新しい免疫バイオセンサシステムを構築した.次に,コルチゾルの連続測定を可能にするために,バイオセンサが迅速交換可能なチェンジャーシステムと微小バイオセンサを設計・製作し,これらをフローシステムに組み込むことにより,コルチゾルの迅速・簡便な測定法を確立した.さらに,魚病診断のためのバイオセンサとして,エドワジェラ・イクタルリ(E. ictaluri)を検出するためのシステムの開発を試みた.本研究では,抗-E. ictaluri抗体を固定化した免疫磁性ビーズを用いて菌体を特異的かつ効率的に濃縮し,それをPCR法の測定試料とすることにより,従来よりもE. ictaluriを高感度に検出できるシステムを構築した.
一方,双方向通信については,次年度の計画に対応した電子回路の設計を行い,試作機を製作した.
コルチゾル測定用バイオセンサについては,酵素反応と免疫反応を組み合わせた全く新しいバイオセンサを構築することにより,コルチゾル濃度1.0~200 ng/mlの定量が可能であった.この値は, 従来のイムノセンサの測定最大限界値の約20倍の値を示した.次に,本センサの特異性を検討したところ,上記の他種ホルモンには応答しないことが確認され,コルチゾルの特異的検出が可能であることがわかった.また,魚病診断については,考案したシステムを用いてE. ictaluriの検出を試みたところ,1ml当たり100 cfuまでの菌体溶液で検出が可能であり,従来のPCR法と比較して約100倍の検出感度を実現することができた.一方,試作した双方向通信回路の作動については,次年度の研究計画に十分対応できることが確認できた.
さらに,これら研究成果の一部を2017年9月に東京都で開催された日本水産学会創立85周年記念国際シンポジウム,International Symposium “Fisheries Science for Future Generations”において発表したところ,Best Student Presentation Awardsを受賞することができた.[発表題目:Development of a immunosensor system using enzyme reaction for detecting oocyte maturation-inducing hormone in fish (Y. Saito, H. Wu, H. Ohnuki, H. Endo)]
以上の理由から,本研究の進捗状況は計画通り順調に進展していると考えている.
平成30年度は前年度に引き続き,コルチゾル測定用バイオセンサのフローシステムの更なる改良,ストレス応答測定のための双方向通信システムの試作機の魚体への装着を遂行する.また,魚の排卵時期を予測するためのバイオセンサについても併せて開発を試みる.まず,コルチゾルセンサについては,電極部分をさらに微小化し,コルチゾルの連続測定が可能なフロー式バイオセンサシステムを製作する.すなわち,自己組織化単分子膜を利用して抗-コルチゾル抗体及びGOxを微小金電極に固定化することにより,前年度よりもより微小なバイオセンサを作製し,これにマイクロポンプ,試料用チューブ流路を組み合わせることにより,微小フローシステムを製作する.次に,双方向通信システムについては,前年度の試作機を供試魚(ナイルティラピア)に装着し,魚を遊泳させた状態で双方向電波通信によりセンサの校正を行いながら,同時にストレス応答のモニタリングを試みる.さらに,排卵時期の予測については,魚類が排卵前に17α,20β-dihydroxy-4-pregnen3-one(DHP)を急激に分泌することに着目し,これを指標とした生体にやさしいDHP測定用バイオセンサの製作を行う. -
バイオセンサによる魚類のユーストレス/ディストレスの解明:魚に良いストレスとは?
研究期間: 2016年04月 - 2019年03月 代表者: 遠藤 英明
挑戦的萌芽研究 研究代表者 16K14969
本研究では,研究代表者が製作した「魚類のためのストレス応答測定用バイオセンサ」を利用して,魚にとって有益なストレス(ユーストレス[Eustress]))と有害なストレス(ディストレス[Distress])の関連性を解明することを目的とする.
今年度は,飼育水の水位変動によるストレス応答,及び塩化ナトリウム含有飼育水が魚類のストレス回復に及ぼす影響を調べた.また,次年度の計画にあるストレス因子としての光の影響を検討するため, LEDを用いた新しい照射システムの設計・製作を行った.まず,前年度に作製されたグルコースバイオセンサを,試験魚となるティラピアに装着し,飼育水の水位変動によるストレス応答モニタリングを行った.その結果,飼育水位の低下が供試魚にストレスとなり,魚体高と同じ高さまで水位が低下すると,魚に対して大きなストレスとなることが明らかとなった. 次に,種々の塩化ナトリウム濃度(0, 0.1, 0.5 %)における飼育水中で3日間飼育した魚にバイオセンサを装着し,ストレスを負荷(10分間空気中に曝露し)した後,水槽に戻した際のストレス回復のモニタリングを行った.その結果,魚体を空気中へ曝露させることによって血糖値の大幅な上昇が確認されたが,その後の回復については,各塩化ナトリウム濃度において優位な差は認められなかった.一方,光の照射条件が統一できる新たな照射システムの製作を行ったところ,LED照射面に高い光透過率と光学的歪の少ない特性をもつガラス素材を使用することにより,魚体への照射を効率的に行うことができた.
本研究は,ストレス応答測定用バイオセンサを用いることにより「魚の真のストレス応答」を測定・解析し,魚類の行動と生理との間に新たな相関関係を見出し,「魚類にとってのユーストレス/ディストレスの解明」を探索することを目標としている.本年度は,この目的を実現するために,各種ストレス因子の検討および新しい光照射システムの設計・製作を行った.各種ストレス因子の検討については,水位の変化が魚のストレッサーとして有効であることがわかった.また,飼育水の塩化ナトリウム濃度については,いずれの濃度においてもストレスの回復に顕著な差は認めらず,ストレッサーとしての塩化ナトリウムの濃度変化は,ユーストレスにもディストレスにもあてはまらないことを結論づけた.次に,次年度に向けてのLEDを光源とした新しい光照射システムの設計および製作を行ったところ,今後の実験計画に十分に対応できるシステムを構築することができた.
さらに,本研究成果の一部を2017年9月に東京都で開催された日本水産学会創立85周年記念国際シンポジウム,International Symposium “Fisheries Science for Future Generations”において発表したところ,Best Student Presentation Awardsを受賞することができた.[発表題目:Exploration of fish eustress using wireless biosensor system (H. Takahashi, M. Nakayama, H. Wu, T. Arimoto, T. Nakano, H. Endo)]
以上の理由から,本研究の進捗状況は計画通り順調に進展していると考えている.
次年度は,魚類のストレス応答に及ぼす光照射の影響に着目して,それらストレッサーの効果について検討する.まず,バイオセンサを試験魚(ティラピア)の眼球外膜間質液(EISF)へ挿入し,無線通信型ポテンシオスタットから+650 mVの電圧を印加して, 得られた出力電流値から供試魚の血中グルコース濃度を測定し, これにより魚のストレス応答モニタリングを行う.そしていくつかの飼育試験区を設け,各波長の光(LEDによる一定波長)が照射された水槽中で血中グルコース濃度が平常値になるまで馴致する.この時,魚は光の波長変化により一時的にストレス応答を示すが,時間と共に馴致し,やがて元の状態に戻ると予想される.次にこれらの魚に,致死には至らないが生死を分けるような強い刺激(ここではユーストレス/ディストレスとは別の意味での強いストレス刺激,例えば空気中曝露)を負荷し,その後のストレス応答の回復履歴を経時的に解析する.これにより,ストレス応答のレベルや回復履歴を対照区と比較し,そのレベルがコントロールより高い場合や回復が遅い場合のストレッサーはディストレスとなり,レベルが低い場合や回復が早い場合のストレッサーはユーストレスとなるという仮説を立てることで,両者の解明への糸口が得られるものと考えている. -
魚類のストレスの見える化:可視光通信技術を用いたバイオセンシングシステムの創出
研究期間: 2014年04月 - 2017年03月 代表者: 遠藤 英明
基盤研究(B) 研究代表者 26292114
本研究は,魚類のストレス応答を測定するために,可視光通信技術を用いた新しいバイオセンシングシステムを創出することを目的とした.まず,ストレスの一次応答測定のためのコルチゾル測定用イムノバイオセンサを,抗体,カーボンナノチューブ,金電極等を用いて製作した.次に,ストレスの二次応答測定および抗病性評価のためのグルコース/コレステロール同時計測用酵素バイオセンサを,酵素,カーボンナノチューブ,微小電極等を用いて製作した.さらに,グルコースセンサ,LED型光送信機および受光器より構成される可視光通信システムを構築し,魚のストレス応答のバイオセンシング試み,そのリアルタイムモニタリングを可能にした.
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研究期間: 2013年04月 - 2016年03月 代表者: 大貫 等
基盤研究(C) 研究分担者 25390050
電気化学法インピーダンス法によるセンシングは優れた特性を有する.しかし,インピーダンス信号の微弱さが測定精度の低下を引き起こしている.そこで本研究では,信号強度の増大のための試みを行った.
まず櫛形電極の側面部を絶縁層で覆い,平滑な表面となる電極中央部に電場を集中させた.しかし,信号強度は逆に低下する傾向が見られた.そこで分子長および末端基の異なる二種類の分子を用いて混合比の異なる単分子膜を作製し,欠陥構造を意図的に導入した.測定の結果,多くの欠陥構造を導入した試料(75 % )で高いシグナル強度が得られた.これらの結果に基づき,構造欠陥によるシグナル増強のメカニズムを提案した. -
バイオセンサによる魚類のストレス応答モニタリング:魚のきもちを知ることは可能か?
研究期間: 2013年04月 - 2015年03月 代表者: 遠藤 英明
挑戦的萌芽研究 研究代表者 25660155
本研究は,バイオセンサシステムを用いることにより,魚を自由に遊泳させた状態で体内のストレス指標をリアルタイムモニタリングするという全く新しいアプローチ法により,ストレスとされる行為が魚体に及ぼす影響を解析することを目的とした.すなわち,魚を遊泳させながら生化学的および行動生理的なストレス因子を負荷し,この状態で血中グルコース濃度をモニタリングし,各因子とそれに伴う生理状態,行動変化との関係を明らかにすることを試みた.これにより「魚の真のストレス応答」を測定・解析し,魚類の行動と生理との間の新たな相関関係を見出し,究極的には 「魚のきもち」を知るための可能性について探求した.
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魚類の健康バイオセンシング「さかなドック」の創出に関する研究
研究期間: 2011年04月 - 2014年03月 代表者: 遠藤 英明
基盤研究(B) 研究代表者 23380122
本研究では,魚類健康診断の検査項目において,新しい測定法の確立が求められている血液成分のモニタリング,産卵時期の予測,魚病細菌の検出に焦点をあて,これら項目を迅速・簡便かつリアルタイムに測定できる各種バイオセンサシステムを開発し,魚類健康診断のための「さかなドッグ」の構築を目指すことを目的とした.その結果,血液中のグルコース,コレステロール,乳酸等の血液成分を,魚を遊泳させた状態でリアルタイムモニタリングすることを可能にした.また,産卵時期を予測するための卵成熟ホルモン(DHP)測定システム,魚病診断のためのアユ冷水病細菌検出システムの開発を試み,迅速簡便な測定法を確立することに成功した.
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導電性LB膜を用いたソフトな電極形成技術の開発とバイオセンサへの応用
研究期間: 2009年 - 2011年 代表者: 大貫 等
基盤研究(B) 研究代表者 21360006
水面上で薄膜形成を行うラングミュア・ブロジェット(LB)法や溶液中で単分子形成を行う自己組織化膜(SAM)法は、デリケートな試料を乱すことなくその表面に薄膜形成することができる。本研究ではこの特性に注目し、金属的電気伝導特性を有するLB膜や高い伝導特性を持つSAMを用いて生体試料やナノ構造体への電気的接触を確立することで、これまでデバイス応用が困難とされたソフトな物質群を素子化する技術を開発した。具体的な適用例としてバイオセンサおよび有機超薄膜デバイスの開発を行った。
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魚類のための生体留置型ワイヤレスバイオセンサーの創出に関する研究
研究期間: 2008年04月 - 2011年03月 代表者: 遠藤 英明
基盤研究(B) 研究代表者 20380119
本研究は,水産養殖分野における魚類の迅速・簡便な健康診断法の確立を念頭におき,魚体内に留置可能なバイオセンサを微小電極と酵素を用いて製作し,陸上からリアルタイムに魚の健康診断を行うことができる測定システムを創出することを目的とした.研究の結果,魚を自由に遊泳させた状態で,健康度の重要な指標となる血液中のグルコース及び総コレステロール濃度をリアルタイムにモニタリングすることに成功した.
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養殖魚の健康診断のための生体刺入型バイオセンサーの創出に関する研究
研究期間: 2005年04月 - 2007年03月 代表者: 遠藤 英明
基盤研究(C) 研究代表者 17580180
本研究は,計測デバイスに光ファイバープローブを,分子識別生体素子に各種固定化酵素を利用することにより,養殖魚の血中グルコース,コレステロール等の検査項目の分析に対して対応が可能で,迅速簡便な測定が行える魚の健康診断用バイオセンサーシステムの構築を目的とした.平成17年度では,コレステロールエステラーゼ/コレステロールオキシダーゼと酸素感受性光ファイバープローブから魚類血中コレステロース測定用センサシステムを製作し,平成18年度には,このプローブとグルコースオキシダーゼ,針型キャップを用いることにより魚の血中グルコースの迅速簡便な測定が可能な生体刺入型バイオセンサーを製作した.生体刺入型バイオセンサーの製作には,グルコースオキシダーゼ溶液と光架橋性樹脂素材(AWP)から固定化酵素膜を調製し,注射針(18G)の側面4箇所に口径800μmの穴を貫通させた針型キャップに,先の酵素膜と直径400μm酸素感受性光ファイバープローブとともに挿入した.
このセンサーを用いてティラピアの血中グルコース濃度の測定を行ったところ,その濃度とセンサー出力との問に良い直線関係が得られ,相関係数は0.9741であった.また,本センサーを直接魚体に刺入して,血中グルコース濃度の測定を行ったところ,センサー法と従来法問には良い相関関係が認められ,相関係数は0.9475であった.また,1検体の分析所要時間は3分程度であった.次に,本センサーの再現性を検討したところ,約70回の連続測定において,標準偏差は0.047を示し,良い再現性が認められた.また,センサーの安定性を検討したところ,測定後のセンサーを5℃で保存することにより50日間において安定した測定が可能であった.以上の結果から,本センサーシステムが養殖魚の血液診断に適用できることが明らかになった. -
免疫反応におけるブラウン運動を指標としたHACCP対応型微生物検出法の確立
研究期間: 2001年04月 - 2004年03月 代表者: 遠藤 英明
基盤研究(C) 研究代表者 13660201
本研究の目的は,水産分野におけるHACCPを念頭において,免疫反応のブラウン運動を指標とした高感度かつ迅速な新しい微生物検出法を開発することである.まず,本法を実際の水産食品の菌数測定に適用することを念頭において,超音波振動エネルギーを用いた菌体脱離法を確立するために,フローサイトメトリー(FCM)による評価を行った.その結果,各種水産食品(練り製品,魚介類)に付着している菌体を,約5分の超音波照射時間で95%以上脱離できることがわかった.またフルオレッセインイソチオシアネートで標識した抗-大腸菌ポリクロナール抗体を用いて,練り製品中の大腸菌の特異的検出をFCMで試みたところ,1時間程度でその検出が可能であることがわかった.次にブラウン運動を指標とした細菌の特異的検出法の確立を検討した.すなわち,食品衛生上重要な危害因子となるサルモネラ属菌と,これに対する抗体ラテックスビーズを免疫反応させることにより,この際生じるブラウン運動の変化をサブミクロン粒度分布計で測定し,それらの粒度分布を解析した.免疫反応後,菌体とビーズの凝集体のブラウン運動は小さくなり,これにより予想される菌体の全長よりも大きな値が得られた.これは抗原抗体反応により複数の菌体が抗体とともに凝集し,その結果粒子の全長が大きくなったためと考えられた.一方,大腸菌を対照試料とした場合,上記のような変化は認められなかった.したがって本法を用いることにより硝化細菌を特異的に検出できることがわかった.なお,一検体当たりのブラウン運動解析所要時間は約6分であり,抗原抗体反応等の前処理を加えても2時間程度で菌体検出を行うことが可能であった.以上,本研究で得られた知見はサルモネラ属菌ばかりでなく,抗体の種類を変えることにより,他の食中毒菌にも応用できる可能性があり,今後のHACCPに大いに貢献できるものと考えられる.
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フローサイトメトリーを用いたHACCP対応型細菌数測定法の確立に関する研究
奨励研究(A)
研究期間: 1999年 - 2000年 代表者: 遠藤 英明
その他 研究代表者 11760147
近年,水産食品業界の分野においてもHACCPの導入が検討されはじめ,食品中の細菌数を早期に把握することが,衛生管理上で極めて重要な項目となっている.また水産養殖分野においてもHACCP観点から,安全で健康な養殖魚を供給することが次第に重要視されはじめている.そこで本研究では,HACCPにおける原料から食卓までの食品の危害因子を鑑み,フローサイトメトリー(FCM)を応用した迅速な細菌検出法及び抗生物質検出法の確立を試みた.
まず,食品(水産練り製品)に付着した大腸菌の迅速測定を行うため,超音波振動エネルギーを利用して,食品からの菌体脱離を試みた.その結果,約3分の超音波処理でほとんどの大腸菌を脱落できることが明らかとなった.また,用いたカマボコ試料は,製品の破片などの菌体以外の粒子を含んでいる可能性があるため,菌体とそれら粒子を識別するため,propidium iodideを用いた.その結果,FCMスキャッタグラムを解析することにより,それらを識別することが可能であった.さらに,カマボコ貯蔵下における大腸菌数の計測に本法を適用したところ,平板培養法で得られた結果との間に良い相関を示した.FCMの1検体あたりの測定所要時間は1分であり,試料の調製を含めても30分以内で測定が可能であった.
次に本研究では,抗生物質(アンピシリン)の迅速検出をFCMを用いて検討した.すなわち,アンピシリン感受性の大腸菌を用いて,本菌株がアンピシリンを添加されたときに生ずる菌体細胞の形態変化をFCMで解析することにより,その検出を試みた.その結果,アンピシリンの濃度に依存して,菌体の大きさと構造が変化することがわかった.この現象を利用して,魚肉及び養殖池中のアンピシリンをFCMで測定したところ,従来法との間に良い相関が認められ,2.5時間程でその検出が可能であった. -
Naチャネル阻害物質計測用センサの開発と魚介毒の計測および生理活性物質検索への応用
研究期間: 1997年 - 1999年 代表者: 渡辺 悦生
基盤研究(B) 研究代表者 09556046
本研究では,カエル膀胱膜,Na^+電極,フローセル,ペリスタボンプおよびレコーダを組み合せることにより,連続可能なNa^+チャネル阻害物質計測用センサシステムを製作し,各種試料を用いて実用化の観点から検討してきた.その結果,基本的な諸条件を下記のように確立した.
○測定条件:送液の温度30℃,pH4.8,移送速度0.8ml/min,試料注入量50μlとし,8%NaCl溶液をフローセルに移送し,センサの出力が定常となったところで,試料を注入した.出力電位の減少値からフグ毒TTXあるいはNa^+チャネル阻害物質量を求めた.
○Na^+チャネル電極の製作:2枚の透析膜にはさみこんだ膀胱膜を膀胱腔が電極面を向くように装着し,フローセル中に組み込むことにより^+チャネル電極を製作した.
○試料調製法:フグ-1gを0.1%酢酸で100℃,10分間抽出し,これを原液とした.
貝-1gを0.1N塩酸で100℃,10分間抽出し,これを原液とした.
プランクトン-1gを集めた 紙を細断し,これに0.01M酢酸5mlを加え100℃,20分加熱,濾液を定量とした.
海藻-乾燥のり1gを0.1N塩酸26mlで100℃,10分加熱,遠沈後の上清を定量とした.
漢方薬草-20〜30gを90℃熱水500mlで1時間還流後 減圧濃縮し,30mlとした.
以上の条件下で,フグ毒およびプランクトン毒の計測,海藻および漢方薬草中の^+チャネル阻害物質の検索をおこない,迅速,簡単,連続的にかつ高感度に計測が可能であることを明らかにした. -
抗原抗体反応を用いた魚病性細菌の迅速・高感度検出法の確立に関する研究
奨励研究(A)
研究期間: 1997年 - 1998年 代表者: 遠藤 英明
その他 研究代表者 09760191
本研究は,抗原抗体反応とフローサイトメトリー(FCM)を用いた高感度かつ迅速・簡便な魚病性細菌検出法の確立を目的とした。平成9年度では,FCMによる各種海洋細菌の生菌数測定法の確立及び魚病性細菌Lactococcus garvieae特異的抗体の作製を行った。その結果,FCMによる菌数測定では,10^4〜10^8cells/ml範囲において平板培養法による測定結果との間に良い相関が認められた。またL.garvieaeをフロインドアジュバントとともにウサギに免疫し,その抗血清を作製したところ,本菌体に強い特異性を示すことが認められた。
そこで平成10年度ではこれらの知見を基に,FCMを用いた迅速なL.garvieaeの検出を試みた。まず作製した抗L.garvieae抗体の最適反応条件を検討すると共に,FCM測定におけるプロトコールを決定した。次に本抗体を目的の細菌に反応させた後,二次抗体[抗ウサギIgG(H^+L)・Fluorescein isothiocyanate標識]を反応させて蛍光標識し,これをFCMを用いて測定した。
その結果,本抗体は1×10^4倍の倍率で抗血清を希釈して用いることにより,L.garvieaeに対して最大の特異性を示した。またE.coliをはじめ,その他の細菌にはほとんど反応しないことが明らかとなった。次にL.garvieae及びE.coliを適当な割合で混合した溶液を調整し,L.garvieaeの特異的検出を行ったところ,10^4〜10^7cells/mlの範囲でその測定が可能であった。さらに,FCMによる一検体の測定所要時間は2分間であり,抗原抗体反応等の前処理を含めても3時間以内での測定が可能であった。したがって従来より用いられている平板計数法に比べて極めて迅速に測定を行えることが明らかとなった。 -
奨励研究(A)
研究期間: 1994年 - 1994年 代表者: 遠藤 英明
その他 研究代表者 06760173
近年,水産養殖業の分野において連鎖球菌感染症による魚の大量へい死が問題となっていた。この感染を防ぐには,海水中および魚体中の連鎖球菌の生菌数を早期に把握することにより,効果的な予防,治療が可能であるといわれている。そこで本研究では,迅速,簡便な連鎖球菌計測法の確率を目的に,固定化微生物膜,電気化学システム等より成る連鎖球菌検出用バイオセンシングシステムを試作し,その測定を試みた。
まず,病魚より分離された連鎖球菌(Streptococcus sp.)をニトロセルロース膜に吸着固定し,クラーク型酸素電極の作用電極面に装着して微生物電極を製作した。次にこれにエレクトリックメーター,記録計等を接続してバイオセンシングシステムを試作し,微生物電極部分をリン酸緩衝溶液(pH7.0)に浸漬した後,その出力が安定したところで,電極をSTAN/P培地中に移し替え,菌体のよる酸素の減少量を電流減少値として測定した。
その結果,連鎖球菌の生菌数計測を行なったところ,1.4〜7.2x10^7cells/ml範囲で測定が可能であった.また一検体の分析所用時間は約30分間であり,さらに本システムの応答に及ぼすレンサ球菌以外の微生物(Vibrio sp.,P.fluorescens,E.coli等)の影響を検討したところ,その影響は極めて小さく,レンサ球菌のみを選択的に検出できることがわかった.一方これに対して,従来より用いられている平板培養法では,煩雑な操作を必要とするばかりでなく,培養に長時間(2〜3日間)を要するため,測定結果が得られたころには,魚が既にへい死してしまっているという問題があった。したがって本システムを用いることにより,その時間を著しく短縮することができ,このことは水産養殖の分野に新たな知見を提供できるものと考えられる。
なお,本研究の一部は平成6年度日本水産学会秋季大会(三重大学生物資源学部)において口頭発表した。 -
国際学術研究
研究期間: 1992年 - 1994年 代表者: 軽部 征夫
その他 研究代表者 04044047
「フォトバイオセンサーの開発」においては、以下の研究実績を得た。ク-レ研究室は、光ファイバーを用いるバイオセンサー(オプトロード)の研究で知られている。本測定システムは光検出器としてフォトマルを使用しているために小型化することが困難である。そこで、まずはじめに光検出器としてプレート型フォトダイオードおよびアバランシェ型フォトダイオードを使用し、フォトマルを用いた場合と同等の光検出特性を得た。この結果、本オプトロードは小型化でき医療計測への応用が可能であることが分かった。次に、光検出器としてアバランシェ型フォトダイオードを用い、ペルオキシダーゼ・キサンチンオキシダーゼ複合酵素膜を作成し、ヒポキサンチン測定用オプトロードを構築して食品計測用センサーへの応用を追及した。そこで、オプトロードシステムの基本的特性を評価し、固定化酵素(ペルオキシダーゼ)の測定限界を調べた。その結果、絶対量で20〜100pico molの固定化ペルオキシダーゼが検出できることが分かった。さらに、最適化されたルミノールおよび過酸化水素濃度に基づく場合、少なくとも4pico molの固定化ペルオキシダーゼが検出できることを示した。
「高性能免疫センサーの開発」においては、以下の研究実績を得た。トーマ教授の研究室では、抗体に触媒機能を持たせた、モノクローナル触媒抗体の研究を幅広く行っている。AIDSや肝炎の迅速な診断のために、これらの原因となる病原菌を検出する高性能な免疫センサーの開発が求められている。通常の抗体は抗原と特異的な吸着をするだけなので、免疫センサーを構築するためには、抗原抗体反応による微小な質量変化を検出するか、酵素で標識した抗体を用いて酵素反応による変化を検出する必要があった。従って、高性能な免疫センサーを開発するために、申請者らの独自技術であるマイクロデバイスを、トーマ研究室で主に研究しているanti-idiotypicの触媒抗体と組み合わせることを検討した。同研究室では主として、anti-idiotypic触媒抗体の作製法、評価法の実習を行い、技術を習得した。
「メディエーター型バイオセンサーの開発」においては、以下の研究実績を得た。コンタ教授の研究室では、光電気化学的分析法を用いて、生体分子の電気化学的特性を分光学的に評価する研究を幅広く行っている。酵素センサーを構築する上で、酵素ど電極との間に電子の橋渡しを行う人工分子であるメディエーターを用いる場合、溶存酸素のような共存物質の影響を受けにくく、かつ高濃度の基質の定量が可能になるといった利点がある。そこでメディエーター分子の酸化還元状態を分光学的に調べることにより、電極表面だけでなく、酵素膜の厚さ方向の電子移動に関する情報が得られるので、メディエーターの最適化を行えると考えた。またさらにこれらの研究により実用化に近い新しいメディエーター反応系を利用したバイオセンサーの開発を行った。グルコース酸化酵素のメディエーターであるフェロセン誘導体をグルコース酸化酵素に結合させ、その電気化学的特性を分光学的に評価したところ、活性中心からフェロセンを経由して電極に電子が伝達されることが確認された。
「環境計測用バイオセンサーの開発」においては、以下の研究実績を得た。ペルピニヤン大学マ-ティー研究室では、農薬の生物化学的計測の研究を行っている。まず有機リン系の農薬がアセチルコリンエステラーゼの活性を阻害することに着目した。その酵素活性を電極上で測定できるか検討を行ったところ、活性評価に十分使用できることがわかった。次にアセト乳酸合成酵素が除草剤であるスルホン尿素により特異的に阻害されることに着目して、この酵素を大腸菌に大量発現させ、分離精製した。精製した酵素はポリエチレングリコールの存在により安定化されたので、バイオセンサー素子として利用できる可能性が示された。さらに除草剤ジクロロフェニルジメチル尿素(DCMU)は植物の光合成活性を阻害することに着目した。ほうれん草の葉緑体を光架橋性樹脂で白金電極上に固定化し、光合成によって生成される酸素を測定した。その結果、DCMUの存在によって生成される酸素が減少することがわかった。また本固定化方法により固定化膜の寿命を約1年にすることが可能となった。