科研費(文科省・学振)獲得実績 - 関口 美保
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雲化学GCMと観測による金星大気スーパーローテーションの維持メカニズムの解明
研究期間: 2023年04月 - 2027年03月 代表者: 高木 征弘
基盤研究(A) 研究分担者 23H00150
金星の全球的な高速東西風 (スーパーローテーション) は,発見から半世紀を経た現在もその維持メカニズムが解明されていない惑星気象学最大の謎のひとつである。金星スーパーローテーションの維持メカニズム解明の鍵は子午面循環と大気波動であるが,その3次元構造の直接観測は極めて困難である。本研究では,金星大気中の硫酸雲とその材料物質 (微量成分) の3次元的な同時分布の観測を実現し,それを再現する雲化学GCM (大気大循環モデル) を開発することにより,子午面循環・大気波動の3次元構造を明らかにし,スーパーローテーションの維持メカニズムを解明する。
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気候モデルMIROCの雲解像モデル化による第6世代規格への挑戦
研究期間: 2020年10月 - 2023年03月 代表者: 三浦 裕亮
学術変革領域研究(B)(計画研究) 研究分担者 20H05729
本研究では、気候モデルMIROCの並列プログラミング方針を抜本的に改め、水平メッシュサイズ10km以下の雲解像シミュレーションを可能にし、MIROCを次世代気候モデルへ進化させる。新開発の水平離散化法を採用し、大気の流れを全球雲解像モデルNICAMより高い精度で計算する。他方、MIROCによるエルニーニョ現象やモンスーン循環の高い再現性を活かし、大気モデル単体および大気海洋結合モデルによる長期積分結果を提供して、NICAMの長い時間スケールの再現性向上のために協働する。逆に、NICAMによる雲解像シミュレーションのデータ提供を受け、次世代MIROCの短い時間スケールの再現性を高める。
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あかつき・地上観測と数値モデリングの連携による金星大気力学の研究
研究期間: 2016年04月 - 2020年03月 代表者: 松田 佳久
基盤研究(A) 研究分担者 16H02225
数値モデルの開発を進め,金星探査機「あかつき」のIR2カメラが捉えた雲の濃淡が作る惑星規模ストリーク構造を,高解像度シミュレーションで再現することに成功した。結果を詳細に解析した結果,この惑星規模のストリーク構造は傾圧不安定波と波数1の赤道ロスビー波の位相の南北方向の傾きによって説明できることが示された。温暖な極域大気中に見られる非軸対称な擾乱の構造を Venus Express およびあかつきの電波掩蔽観測データによって見出した。金星大気大循環モデルを利用してその構造を再現した結果,この擾乱は極域の順圧不安定によって励起される順圧ロスビー波と解釈できることを示した。あかつきや地上望遠鏡による観測データを最大限に活用するため,地球気象での発展が目覚ましい局所アンサンブルカルマンフィルタを用いたデータ同化プログラムの開発を行い,世界で初めて金星大気大循環モデルに実装した。さらに,Venus Express の雲追跡画像から導出した風速を同化することにより,開発したデータ同化システムの有用性を示した。あかつき LIR/UVI カメラによって発見された金星雲頂上高度に現れた定在波構造が,主に金星低緯度に位置する4つの高地上空に繰り返し発生すること,しかもそれが各地域の夕方に限られることを LIR カメラデータの解析から明らかにした。定在波構造の地形・地方時依存性を解明するため,金星大気大循環モデルを用いた研究も進行中である。地上サブミリ波望遠鏡で観測された金星大気中のCO吸収線のドップラーシフトを解析し,雲層より上空での全球的な大気循環の様子を可視化した。その結果は,従来の先行観測研究で行なわれていたような西向帯状流と昼夜間循環の機械的な結合モデルでは説明できない一方で,重力波の鉛直伝播を考慮した最近の金星大気上層GCMで得られる風速場と定性的に一致していることが分かった。
あかつきや Venus Express および地上望遠鏡による観測データを解析することにより,惑星規模の定在波や極域の温度擾乱,雲層下部の雲のストリーク構造など,これまで知られていなかった新規な大気現象を発見した。さらに,大気大循環モデルを利用した数値シミュレーション結果を解析することにより,こうした大気現象の力学的な生成メカニズムおよび大気大循環に与える力学的な効果を明らかにした。雲物理モデルの開発および大気大循環モデルへの組み込みも順調に進み,現在研究成果を研究雑誌に投稿する準備を行っている。一方で,大気大循環モデルに組み込む放射輸送モデルの開発が若干遅れている。現在,大気微量成分と硫酸雲を含む吸収係数の評価と,ラインバイライン計算による放射フラックスの検討がほぼ完了した段階である。観測された温度分布を仮定した評価計算によると,大気上端からの OLR は金星が吸収する太陽エネルギーとほぼ一致している。
放射輸送モデルの開発および大気大循環モデルへの組み込みを急ぐ。高解像度数値シミュレーション結果を解析し,エネルギースペクトルに関する研究を進める。金星探査機あかつきが現在取得しつつある,高解像度・高頻度の観測データに対して本データ同化システムを適用するため,観測のインパクトを評価する Ensemble Forecast Sensitivity to Observations (EFSO) 技術をデータ同化システムに実装し,予備実験を行う。LIR 観測データからは4金星年分の期間にわたって熱潮汐構造が昼・夜両半球においてとらえられており,その空間構造の特性(位相や振幅),顕著な時間変化の有無を調べることで,データ解析の側面から熱潮汐波の大気加速への寄与を定量的に評価する。データ解析から得られた知見をもとに,データ同化に有効な形でのあかつき観測計画提案に参加し,あかつきデータを用いた金星大気データ同化を実現する。上層大気の大気循環に関して GCM 数値実験との定量的な比較を進め,その時間・空間変動性に関する物理的な考察を深める。また,新規観測データ取得のため,2018年10月に金星が内合となる時期の前後に,IRTF 赤外望遠鏡および JCMT サブミリ波望遠鏡を利用した分光観測を実施する。観測的・理論数値的な研究結果を総合し,波と平均流(スーパーローテーション)の相互作用に関する考察を深め,スーパーローテーションの生成・維持メカニズムの解明に向けた研究を進める。 -
研究期間: 2015年04月 - 2019年03月 代表者: 関口 美保
若手研究(B) 研究代表者 15K17759
今年度も、昨年度から引き続き全球気候モデルで採用されている放射伝達モデルの改良、特に気体吸収過程の改良を中心に研究を進めた。
吸収過程における連続吸収体の吸収プログラムの更新が一昨年から昨年度にかけて行われたため、これらの確認を行った。また、波長、気圧(高度)、温度における気体吸収の変化に対する内挿法および解像度の検討を行った。これらを確認の上、気圧27点(1100-0.01hPa、対数線型)、気温10点(150-330K、20Kごと)、吸収係数のデータベースを作成した。この波長解像度は波長領域ごとに異なり、短波領域でも細かい解像度を保ったままにしているところが従来と異なるところであり、精度の向上が見込まれる。
また、今年度は放射伝達モデル本体の見直しにも着手した。まずは放射スキームの高速化について検討を行った。吸収係数の内挿に使用するサブルーチンPTFIT2について、一層ずつ探す方法からコーディングで整数に変換する方法を試みたところ、PTFIT2が35%高速化した。この高速化の検討に伴い、放射コードの全般的な見直しも行った。
さらに、3次元放射の影響を簡易的に取り入れるための比較研究を始めた。これまで、1次元放射伝達コードを利用した近似法のIndependent Pixel Approximation (IPA/ICA , Stephens et al., 1991; Cahalan et al., 1994)やTilted Independent Pixel Approximation (TIPA, Varnai and Davies,1999) が開発されている。これらの近似法で算定する放射量に対して、3次元放射伝達コードによって見積られた放射量の違いを定量的に評価した。IPAでは精度が不十分であるが、TIPAは3次元効果を良く再現していることがわかった。
本研究課題では飛躍的に発展を遂げる全球気候モデルに対応する放射伝達モデルの開発を主目的としている。
今年度は、本研究のメインである気体吸収テーブルの再更新に向けた基礎研究及びデータベースの準備を行った。これにより、スムーズな研究遂行が可能となった。また、放射伝達モデルは全球気候モデル中でも計算割合が大きく、可能な限りの高速化が求められているため、モデルの見直しをおこない、高速化への道筋をつけた。その他のルーチンについては期待されるような効果が望める箇所は見つからなかったが、引き続き検討を行う。現時点ではアルゴリズム上の変更は難しいと考えられるため、プログラミング上の工夫や計算機特性を生かしたコーディングにより効率化を図っていきたい。さらに、今年度は3次元放射の近似法と3次元放射、1次元放射の比較も行い、近似法によっては3次元放射の影響の取り込みが不十分であることが確認された。
本研究期間は残すところあと1年であるので、これまでの研究の集大成である温室効果気体による気体吸収テーブルの再更新を行う。標準状態から温暖化状態、二酸化炭素4倍増まで対応したテーブルを作成し、放射強制力の精度を十分満たすテーブルを作成する。放射伝達モデル本体においては、高速化の検討を引き続き行い、太陽放射領域と地球放射領域の放射伝達過程の切り分けを行う。また、3次元効果の導入や海洋・地表面過程の改良についても研究を進める。
また、今年度はIPCCに参加する放射強制力のモデル間相互比較プロジェクトRFMIPが開かれるため、MstrnXで参加し、開発した広帯域放射伝達モデルの検証と性能評価比較を行う。
さらに、本研究の成果を気候モデル開発者と共有し、精度と速度の両立を目指しつつ、調整を行う。