科研費(文科省・学振)獲得実績 - 矢澤 良輔
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魚のケガを可視化する~魚類種苗の生残向上に向けた新手法の開発~
研究期間: 2024年04月 - 2028年03月 代表者: 森田 哲朗
基盤研究(B) 研究分担者 24K01835
わが国の養殖高度化における重要課題である完全人工種苗化の実現に向けた最大障壁のひとつが仔稚魚期の大量斃死である。従来解決困難であった斃死要因として、仔稚魚どうしの「噛み合い」や水槽への接触による「スレ」などの外傷が挙げられる。申請者は、細胞膜非透過性の蛍光色素で仔稚魚を生きたまま染色することで、傷害を受けた細胞を迅速かつ特異的に染色し可視化できることを初めて見出した。本研究ではこの手法を利用し、仔稚魚の外傷を速やかに検出し、かつその染色範囲の測定によって外傷の程度を定量する技法の構築を目指す。これにより、従来対策を講じえなかった外傷性の斃死要因について最適な防除法を特定することを目指す。
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研究期間: 2023年04月 - 2027年03月 代表者: 矢澤良輔
基盤研究(B) 研究代表者 23K26983
本研究では、生殖細胞移植により小型陸上水槽内で飼育した小型代理親魚からクロマグロ種苗を生産することを目指す。生殖細胞移植を成功させるためには、ドナー種と宿主種の遺伝的距離が近いことと、両者の産卵環境が類似していることが肝要である。これらの条件を満たす宿主種としてコシナガに注目した。本課題では、定置網で漁獲された成熟した親魚から得られる卵と精子を人工授精することでコシナガ受精卵を生産したうえで、コシナガの種苗生産技術を構築する。ついで、これらのコシナガ種苗を宿主として、クロマグロ生殖細胞を移植し、コシナガからクロマグロ由来の卵と精子の両者を生産する技術の開発を目標とする。
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魚類生殖幹細胞の予見的同定:魚類生殖細胞操作技術の高効率化を目指して
研究期間: 2023年04月 - 2027年03月 代表者: 吉崎 悟朗
基盤研究(A) 研究分担者 23H00344
生殖幹細胞とは卵と精子のおおもとになる幹細胞である。この細胞が、卵や精子へと分化する前駆細胞を供給すると同時に、自己複製を繰り返すことで、魚類では個体の生涯を通じて大量の卵や精子を生産することが可能である。本細胞は“自己複製能”と“分化能”を機能的に解析する移植アッセイを行うことで、アッセイ後にその存在を特定できる細胞であり、予見的にこの細胞を特定することはできない。そこで本研究ではこの課題を克服するため、生殖幹細胞を予見的に特定する手法を、移植アッセイ(機能解析)と単一細胞トランスクリプトームによる網羅的な遺伝子発現解析を組み合わせることで構築することを目指す。
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研究期間: 2021年04月 - 2024年03月 代表者: 細谷 将
基盤研究(B) 研究分担者 21H02279
選抜育種技術はおよそ100年間、「過度な選抜を行わない」ことをセオリーとしてきた。そのために多数の親個体を抱えながらも、世代毎に少しずつしか選抜を進められなかった。これは、近親交配による有害変異の蓄積を避けるためであるが、産業的には大きなデメリットである。そこで、本研究では「有害変異を多く持つ個体を狙って除去することで過度な選抜を可能にする」新規近交系選抜育種法の開発を目指す。本手法が確立されれば、短期間で収益が得られる育種系統を安定的に作り出せると期待される。
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研究期間: 2020年04月 - 2023年03月 代表者: 吉崎 悟朗
基盤研究(A) 研究分担者 20H00430
養殖魚では、その評価が侵襲的になされる形質に着目した育種はほとんど着手されていない。対象個体の評価に伴い、その個体を殺してしまう必要が生じる場合、その次世代を生産できないことがその大きな理由である。ゲノム情報を駆使して集団選抜を行うことも理論的には可能ではあるが、これには多大なスペースと労力、コストを必要とする。さらに、親世代の集団にエリート個体が含まれていなかった場合、その効果は限定的である。本申請では、可食部のサンプリングの際に未熟な生殖細胞を単離・凍結し、エリート個体を同定した後に、エリート個体の凍結生殖細胞を代理親魚へと移植することで、エリート個体に由来する卵、精子の生産を目指す。
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高解像度超音波画像診断による迅速かつ非侵襲的な海産魚の早期性判定法
研究期間: 2019年06月 - 2021年03月 代表者: 矢澤 良輔
挑戦的研究(萌芽) 研究代表者 19K22328
本研究では、超音波による断面像上の生殖腺の形状の雌雄差に着目し、目視による人間の判断で性判定する技術を確立することを目指すが、大量の画像データとその個体に対応する性別および成熟度に関する各種のデータを蓄積、統合することにより、人間の目視では判定できないような僅かな差を持つ画像上の複数のパラメーターを総合的に解析し、性判定のみならず成熟度判定、ひいては質の良い卵を産む親魚を自動的に判別する技術の開発に資するデータとして有用である。良質の卵を生産するメス親魚を高効率、高精度かつ低コストで選別し、優れた種苗を安定的に生産するための、広く水産利用可能な技術に昇華することを目指す。
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同所性近縁種間の生殖隔離機構を利用した完全不妊サバ雑種集団の作出
研究期間: 2019年04月 - 2022年03月 代表者: 矢澤 良輔
基盤研究(B) 研究代表者 19H03030
ゴマサバとマサバの雑種はそのほとんどが不妊であり、新規養殖系統として有用である。産業応用には全個体不妊であることが必須だが、人工的に作出した交雑魚の一部は妊性を有する。そこで、日本近海に存在する複数のマサバおよびゴマサバ系群のうち同時期かつ同海域で産卵するにも関わらず、生殖隔離が成立している系群間を交雑すれば、全個体が不妊であるサバ雑種集団を作出できると考えた。そこで日本各地のマサバとゴマサバの生殖細胞を集め代理親魚技術に用い、ドナー細胞を移植した宿主魚が生産する各系群の配偶子を用いる網羅的な交雑を実現し、完全不妊集団となる系群の組み合わせを見出す。
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研究期間: 2018年04月 - 2022年03月 代表者: 近藤 秀裕
基盤研究(A) 研究分担者 18H03958
本年度は千葉県、神奈川県、および福岡県の沿岸で採取されたドチザメの血清を用い、血清タンパク質濃度および種々の抗原に対する抗体の結合能を解析した。血清タンパク質濃度および病原微生物Aeromonas hydrophilaに対する結合能は、それぞれの地域で大きく異なることが示された。このような違いが個体の生理状態とどのように関わるかについては不明なままである。また、ドチザメ血清より種々のカラム操作により高純度のIgM画分を得た。このIgMをビオチン標識した後、2種類のグラム陽性菌、3種類のグラム陰性菌、および酵母と混合したところ、すべての区においてドチザメIgMが検出された。さらに、ドチザメ血清を用い病原微生物の凝集試験および発育阻害実験を試みたところ、顕著な凝集や発育阻害はみられなかった。
一方、チョウザメについては、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子断片を用いてファージディスプレイライブラリーを構築し、2種類のタンパク質および2種類の病原微生物に対する特異抗体についてバイオパニング法による選別を試みた。バイオパニングを5回繰り返したところ、スカシガイヘモシアニンおよびニワトリ卵白リゾチームに対してライブラリーの結合能が若干上昇した。しかしながら、ブロッキング剤を変更したところ結合力が抑えられたことから、特異的に結合するクローンの濃縮は顕著では無いことが示された。
さらにコイを対象に、異なる水温における抗体産生を調べたところ、水温の上昇とともに自然抗体量は上昇するものの、そのような自然抗体が病原微生物には結合しないことを明らかとした。また、いくつかの魚種を対象に、種々のタンパク質や病原微生物を用いて免疫を試みたが、硬骨魚は非特異的に抗原に結合する自然抗体を多く持つことから、詳細な解析のためには特異抗体の結合反応のみを解析できるような手法を開発する必要があると考えられた。
本年度は、ドチザメ血清中に存在する自然抗体は飼育環境により抗原に結合する能力に違いがあることを示すとともに、その結合が幅広い抗原を認識していることを確認した。このように、タンパク質レベルでの解析は順調に進展しているが、ドチザメ抗体の個々の抗原に対する親和性の強さや特異性については詳細な解析が今後も必要である。さらに、ドチザメの抗体は種々の病原微生物に結合することを確認しているが、これらの微生物の働きを阻害することは確認できなかった。
一方、ファージディスプレイ法を利用して、チョウザメ抗体遺伝子より、抗原特異的なクローン選別のためのライブラリーを作製した。得られたライブラリーにはKLHおよびHELを抗原とする抗体が含まれていることが示唆されたものの、バイオパニング法を用いた選別では顕著な結合力の上昇を見ることができなかった。これはライブラリー作製に用いた臓器が白血球であったため血中の抗体に対応する遺伝子クローンを網羅できていなかった可能性が考えられた。今後、同様の実験をドチザメでも行うに当たり、適切な臓器の選択も含め検討する予定である。
免疫により特異的な抗体を産生することができる硬骨魚においても、自然抗体は高濃度で存在するが、その量は個体の生理状態で大きく変化することを示した。また、硬骨魚の自然抗体は非特異的に様々な分子や成分に結合するため、これまでにいくつかのタンパク質成分を抗原として用い魚を免疫した場合、抗体価の顕著な上昇をみることができないことがあった。したがって、自然抗体と特異抗体の違いを識別しているかどうかについても検討する。
ドチザメおよびチョウザメの抗体は種々の病原微生物やタンパク質に結合するがその結合様式は不明である。病原微生物に対して顕著な凝集活性を示さなかったことからも、通常の抗原-抗体反応とは異なる分子間相互作用により結合している可能性も考えられるため、特定のタンパク質を抗原としたアフィニティークロマトグラフィー法により抗原特異的な抗体を精製し、その結合様式を詳細に解析する必要がある。
また、チョウザメ抗体遺伝子を用いたファージディスプレイ法による解析でも、ライブラリーと抗原として用いた成分との組み合わせによっては結合が見られたが、バイオパニング法により抗原特異的なクローンの濃縮ができなかったことから、抗体産生臓器を用いた抗体遺伝子配列多様性の評価を行っていく必要があると考えられる。
軟骨魚類やチョウザメ類では、免疫により抗体価が上昇したとされる報告がいくつかあるが、免疫から3ヶ月以上といずれも非常に長い時間をかけ、複数回の免疫を経て抗体価の上昇がみられている。このような特異抗体が本当に産生されるのかどうかを調べるため、比較的飼育も容易なチョウザメを対象に免疫実験を行うとともに、可能であればドチザメについても免疫を試みる。
さらに、硬骨魚の自然抗体には特異性はないものの、その血中濃度は生理状態により変化することを明らかとした。また、特異抗体価の変化も様々な環境要因により影響を受けることから、ドチザメやチョウザメの解析結果から得られた情報を元に、抗体産生機構の比較解析を試みる。 -
代理親魚技法を利用した新規交雑種作出技術の開発~優良交雑種を自然交配で生産する~
研究期間: 2016年04月 - 2019年03月 代表者: 矢澤 良輔
基盤研究(B) 研究代表者 16H04969
本課題では、代理親魚技法を用いて通常では繁殖行動を行わない異種の配偶子を生産する代理親を作出し、通常の親魚との自然交配により交雑種を自動的に繰り返し生産する技術の開発を試みる。代理親魚技法とは、ドナー種の生殖細胞を宿主種の仔魚へ移植し、ドナー生殖細胞を宿主生殖腺内で、卵あるいは精子へと分化させる技術である。具体的には、三倍体化処理等により不妊化したA種の宿主(オス) にドナーとなるB種の生殖細胞を移植し、成熟した不妊化A種宿主(オス)にドナー由来のB種の精子のみを生産させる。次に通常のA 種親魚(メス)と宿主A種親魚(オス)を同一水槽内で飼育すれば、同種間での自然交配を行うことが期待される。つまり、この方法では人間の労力を全く要せず、通常の海産魚の自然産卵による受精卵採取と全く同じ方法で、交雑種の受精卵を安定的に繰り返し生産 することが可能になる。本研究では、特にゴマサバ(Scomber australasicus)とマサバ(S. japonicus)の交雑種(ゴママサバ)の生産に応用する。
平成29年度は、上記の課題を遂行するため、凍結保存した代理親魚技法に最も適した未成熟なサバ精巣由来のドナー細胞および成熟精巣から未分化型の精巣細胞を濃縮したドナー細胞を各種サバ宿主に移植した。これらの移植魚は現在飼育中であり、今後移植魚の成熟を待ち、ドナー由来配偶子が生産されるかを確認する。
また、今後は移植魚と天然魚あるいは移植魚同士の自然交配が必要となる。サバ類の三倍体はメス化し、雑種はオス化することがこれまでの研究で明らかとなっていることから、一部の移植魚では性転換が必要となることが予想される。そこで、既に確立しているアロマターゼインヒビター投与によるオス化および、エストラジオール投与によるメス化技術を駆使し、自然交配により交雑種を自動的に繰り返し生産する技術の開発を試みる。
平成29年度の最大の目標は不妊サバ宿主へドナー精巣細胞を移植した移植魚を大量に作出することであった。実際に移植を行う時期、すなわちサバ宿主の生産が可能な時期(3月~6月)には、ドナー精巣細胞を供給する両種のサバも成熟しているため、これまでに明らかにした移植に最適な発達段階である未熟なドナー精巣を得ることが困難であった。
そこで、1)凍結保存した未熟な精巣由来のドナー細胞の移植、および2)成熟した精巣から未分化型の精巣細胞を濃縮したドナー細胞の移植を実施した。その結果、どちらのドナー細胞を用いても、ドナー由来の精子が代理親魚技法により生産可能であることを明らかにした。これにより、ドナー供給の問題が解決され、移植時期に関しての自由度が劇的に増加した。
さらに、既に生殖細胞欠損型の不妊を示すことが明らかとなっているゴマサバxマサバ交雑種(ゴママサバ)の宿主への利用を検討した。実際に移植実験を行ったところ、マサバドナー細胞およびゴマサバドナー細胞のいずれも、効率良くゴママサバ宿主の生殖腺に生着することが確認された。このことから、ゴママサバ雑種も宿主として利用可能であることが期待される。
平成30年度は、これまでに作出した三倍体サバ移植魚およびゴママサバ雑種移植魚がドナー由来の機能的な配偶子を生産可能か否かを確認する。ドナー由来の配偶子生産の確認については、これまでに確立されているゲノムDNA上の配列を標的とした種判別PCR法を用いる。また、ドナー由来の配偶子の生産の確認のため、ミトコンドリアDNAによる母系遺伝の種判別、マイクロサテライトマーカーによるドナー個体との遺伝子型の同定を実施する。さらに、ドナー由来の配偶子が生産されていることが確認されれば、次にこれらの配偶子が機能的か否かを人工受精試験により確認する。また、今後は移植魚と天然魚あるいは移植魚同士の自然交配が必要となる。サバ類の三倍体はメス化し、雑種はオス化することがこれまでの研究で明らかとなっていることから、一部の移植魚では性転換が必要となることが予想される。そこで、既に確立しているアロマターゼインヒビター(AI)の経口投与によるオス化および、エストラジオール(E2)の
経口投与によるメス化技術を駆使し、効率良く自然交配により雑種を生産可能な組み合わせの移植親魚を作出する。上記の各技術を組み合わせ、自然交配により交雑種を自動的に繰り返し生産する技術の開発を試みる。