科研費(文科省・学振)獲得実績 - 近藤 秀裕
-
魚類における耐病性責任遺伝子を用いた宿主と病原体の史的攻防メカニズムの解明
研究期間: 2024年04月 - 2028年03月 代表者: 坂本 崇
基盤研究(A) 研究分担者 24H00521
自然河川で過去に採集された野生個体と冷水病菌株を解析し、疾病流行菌株の変異(移り変わり)と野生集団の遺伝的変異(宿主耐病性遺伝子の集積)との関連性を明らかにする(分子生態学的研究)。さらに、2つの耐病性責任遺伝子の組み合わせから、耐病性形質に対応する菌株グループを明らかにし(細菌学的研究)、耐病性メカニズムの解明(免疫学的研究)により、野生個体から耐病性個体選抜を可能にする分子育種法を開発する(育種学的研究)。
-
研究期間: 2023年04月 - 2028年03月 代表者: 佐野 元彦
基盤研究(A) 研究分担者 23H00343
魚類ウイルス病において持続感染した感染耐過魚は新たな感染源となるため、その制御が必要である。そこで、強毒化が問題となっているサケ科魚類の伝染性造血器壊死症(IHN)をモデルとし、①ウイルスの持続感染がどのように起こるのか、その成立条件は何か、②持続感染状態がどのようにウイルス変異・強毒化をもたらすのか、③免疫機能のどのような因子の活性化が持続感染の発生抑制に有効か、④持続感染の発生抑制効果があるワクチンはどのようなものか、を明らかにする。以上から、持続感染を制御する新たなワクチンプログラムの活用により魚類養殖におけるウイルス感染環を総合的に制御する、新たな魚病対策を提起する。
-
有用細菌の力を借りて世界のエビ養殖を病原微生物感染症から救うための研究
研究期間: 2022年04月 - 2026年03月 代表者: 廣野 育生
基盤研究(A) 研究分担者 22H00379
本研究では、我々がこれまでの研究で病原微生物感染防御効果があることを明らかにした3種類の有用細菌を用い、それぞれをクルマエビ類に投与した際にクルマエビ類の遺伝子発現に影響を与えるのか、コンビネーションで投与したらどのような効果が見られるか、これら細菌が産生する物質の何が感染防除に働くのかについて感染試験、遺伝子発現解析および細胞学的な研究を駆使することで明らかにする。最終的には有用細菌を利用することで、養殖場で脅威となっている病原微生物感染症による被害を軽減するための技術開発を行う。
-
クルマエビ類病原ウイルスWSSVの病原性メカニズムの分子レベルでの解明
研究期間: 2019年04月 - 2023年03月 代表者: 廣野 育生
基盤研究(A) 研究分担者 19H00949
本研究ではクルマエビの病原ウイルスであるWSSVの類似化石ウイルスを復元し、その復元化石ウイルスを用いてWSSVの病原性メカニズムの解明を目的とし、①クルマエビ類ゲノムに存在するWSSV類似化石ウイルスの復元、②WSSV特異的遺伝子を化石ウイルスに導入したキメラウイルスによる病原性メカニズムの解明および③WSSV類似化石ウイルスゲノムに存在する遺伝子から転写されるmRNAの機能について解明を行う。さらに、これらの研究を通してクルマエビ類のWSSV感染症防除法開発の基盤技術の構築に努める。
-
研究期間: 2018年06月 - 2020年03月 代表者: 近藤 秀裕
挑戦的研究(萌芽) 研究代表者 18K19227
本研究では、生殖腺刺激ホルモン受容体に特異的に結合する特異抗体を応用し、生殖腺の発達を抑制する手法の開発を試みた。ウサギを免疫しニジマス生殖腺刺激ホルモン受容体に対する抗血清を調製し、ここからIgGを精製したものを特異抗体として実験に用いた。本抗体を魚に投与し約6ヶ月飼育したところ、抗体を投与した個体において成長の亢進がみられたものの当初の仮説とは逆に生殖腺の発達は促進された。
魚類養殖では生殖腺の発達が生産物の価値および品質に影響を及ぼすことがある。養殖魚において生殖腺の発達を制御することができれば効率的な生産が可能となることが期待される。本研究では、生殖腺刺激ホルモンに対する抗体を用いた生殖腺の発達制御を試みたが、残念ながら本抗体では魚類生殖腺の発達を阻害することができなかった。生殖腺の発達は生殖細胞の分化に伴い起こるため、今後、生殖細胞そのものを標的とした生殖線発達の阻害手法の開発を検討している。 -
研究期間: 2018年04月 - 2022年03月 代表者: 近藤 秀裕
基盤研究(A) 研究代表者 18H03958
本年度は千葉県、神奈川県、および福岡県の沿岸で採取されたドチザメの血清を用い、血清タンパク質濃度および種々の抗原に対する抗体の結合能を解析した。血清タンパク質濃度および病原微生物Aeromonas hydrophilaに対する結合能は、それぞれの地域で大きく異なることが示された。このような違いが個体の生理状態とどのように関わるかについては不明なままである。また、ドチザメ血清より種々のカラム操作により高純度のIgM画分を得た。このIgMをビオチン標識した後、2種類のグラム陽性菌、3種類のグラム陰性菌、および酵母と混合したところ、すべての区においてドチザメIgMが検出された。さらに、ドチザメ血清を用い病原微生物の凝集試験および発育阻害実験を試みたところ、顕著な凝集や発育阻害はみられなかった。
一方、チョウザメについては、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子断片を用いてファージディスプレイライブラリーを構築し、2種類のタンパク質および2種類の病原微生物に対する特異抗体についてバイオパニング法による選別を試みた。バイオパニングを5回繰り返したところ、スカシガイヘモシアニンおよびニワトリ卵白リゾチームに対してライブラリーの結合能が若干上昇した。しかしながら、ブロッキング剤を変更したところ結合力が抑えられたことから、特異的に結合するクローンの濃縮は顕著では無いことが示された。
さらにコイを対象に、異なる水温における抗体産生を調べたところ、水温の上昇とともに自然抗体量は上昇するものの、そのような自然抗体が病原微生物には結合しないことを明らかとした。また、いくつかの魚種を対象に、種々のタンパク質や病原微生物を用いて免疫を試みたが、硬骨魚は非特異的に抗原に結合する自然抗体を多く持つことから、詳細な解析のためには特異抗体の結合反応のみを解析できるような手法を開発する必要があると考えられた。
本年度は、ドチザメ血清中に存在する自然抗体は飼育環境により抗原に結合する能力に違いがあることを示すとともに、その結合が幅広い抗原を認識していることを確認した。このように、タンパク質レベルでの解析は順調に進展しているが、ドチザメ抗体の個々の抗原に対する親和性の強さや特異性については詳細な解析が今後も必要である。さらに、ドチザメの抗体は種々の病原微生物に結合することを確認しているが、これらの微生物の働きを阻害することは確認できなかった。
一方、ファージディスプレイ法を利用して、チョウザメ抗体遺伝子より、抗原特異的なクローン選別のためのライブラリーを作製した。得られたライブラリーにはKLHおよびHELを抗原とする抗体が含まれていることが示唆されたものの、バイオパニング法を用いた選別では顕著な結合力の上昇を見ることができなかった。これはライブラリー作製に用いた臓器が白血球であったため血中の抗体に対応する遺伝子クローンを網羅できていなかった可能性が考えられた。今後、同様の実験をドチザメでも行うに当たり、適切な臓器の選択も含め検討する予定である。
免疫により特異的な抗体を産生することができる硬骨魚においても、自然抗体は高濃度で存在するが、その量は個体の生理状態で大きく変化することを示した。また、硬骨魚の自然抗体は非特異的に様々な分子や成分に結合するため、これまでにいくつかのタンパク質成分を抗原として用い魚を免疫した場合、抗体価の顕著な上昇をみることができないことがあった。したがって、自然抗体と特異抗体の違いを識別しているかどうかについても検討する。
ドチザメおよびチョウザメの抗体は種々の病原微生物やタンパク質に結合するがその結合様式は不明である。病原微生物に対して顕著な凝集活性を示さなかったことからも、通常の抗原-抗体反応とは異なる分子間相互作用により結合している可能性も考えられるため、特定のタンパク質を抗原としたアフィニティークロマトグラフィー法により抗原特異的な抗体を精製し、その結合様式を詳細に解析する必要がある。
また、チョウザメ抗体遺伝子を用いたファージディスプレイ法による解析でも、ライブラリーと抗原として用いた成分との組み合わせによっては結合が見られたが、バイオパニング法により抗原特異的なクローンの濃縮ができなかったことから、抗体産生臓器を用いた抗体遺伝子配列多様性の評価を行っていく必要があると考えられる。
軟骨魚類やチョウザメ類では、免疫により抗体価が上昇したとされる報告がいくつかあるが、免疫から3ヶ月以上といずれも非常に長い時間をかけ、複数回の免疫を経て抗体価の上昇がみられている。このような特異抗体が本当に産生されるのかどうかを調べるため、比較的飼育も容易なチョウザメを対象に免疫実験を行うとともに、可能であればドチザメについても免疫を試みる。
さらに、硬骨魚の自然抗体には特異性はないものの、その血中濃度は生理状態により変化することを明らかとした。また、特異抗体価の変化も様々な環境要因により影響を受けることから、ドチザメやチョウザメの解析結果から得られた情報を元に、抗体産生機構の比較解析を試みる。 -
病原微生物の侵入・攻撃に対するクルマエビ類の免疫応答に関する研究
研究期間: 2015年04月 - 2020年03月 代表者: 廣野 育生
基盤研究(A) 研究分担者 15H02462
1. Vibiro parahaemolyticus EMS/AHPND株産生毒素耐性バナメイエビで特異的に発現する遺伝子:ホルマリンで不活化したV. parahaemolyticusEMS/AHPND株を餌に加えてバナメイエビに給餌した。給餌開始3日以内にほとんどのエビは死亡したが、1回目の給餌試験では200匹中5匹が生残した。2回目の試験では500匹中15匹が生残した。1回目の給餌試験で生残したエビについて次世代シーケンサーで消化器官で発現している遺伝子の網羅的な解析を行ったところAnti LPS因子(ALF)の1つのタイプが有意に遺伝子発現量が高いことがわかった。次いで、2回目の試験で生残したエビについても同じ遺伝子の発現を調べたところ、遺伝子の発現量が有意に高いことが明らかとなった。これらのことから、ALFの1つタイプがEMS/AHPND株が産生する毒素に対する抵抗性に関与していると考えられた。
2. クルマエビ類ゲノム中に存在する病原ウイルスWSSVホモログ遺伝子に関する研究:クルマエビ類の多くはゲノム中に病原ウイルスWSSVの遺伝子のホモログがマルチコピーで存在しているが、今回調べた甲殻類にうちテナガエビとヤマトヌマエビはWSSVの遺伝子のホモログが確認されなかった。そこで、バナメイエビ、テナガエビとヤマトヌマエビを用いてWSSVで感染試験(浸漬感染と注射感染)を行ったところ、WSSVに対する感受性がWSSV遺伝子のホモログ遺伝子をゲノムに持つか持たないかで異なることが明らかとなった。これらのことは病原ウイルスWSSVのホモログ遺伝子がWSSV感染に何らかの形で関与していると思われた。
3. クルマエビ抗菌タンパク質遺伝子動態:クルマエビのペナエイジンはWSSV感染で発言が減少することが明らかとなった。WSSVに応答して発現が誘導される機能未知遺伝子を見つけた。
急性肝すい臓壊死症原因菌であるV. parahaemolyticusの病原性とホストであるクルマエビ類の生体防御・免疫応答の相互作用についての解明が進んできており、本感染症の病原性発揮機構解明が期待できるところまできている。
クルマエビ類のゲノム中に存在する病原ウイルスWSSVのホモログ遺伝子について、クルマエビ類以外にもカニの仲間にも存在することがわかり、大昔には既に水環境中にはWSSV類似ウイルスが複数種存在し、それらウイルスが宿主のゲノムに組み込まれた可能性がわかってきた。これらのゲノム情報と実験系との成果から、WSSVの病原性メカニム解明の手がかりが得られつつある。今後、化石化したWSSV類似ウイルスのゲノムをクルマエビ類ゲノムから再構築することにより、WSSVの病原性メカニズム解明が可能になると考えている。
今年度の研究成果と、現在までの進捗状況に記載したように急性肝すい臓壊死症原因菌であるV. parahaemolyticusの病原性とクルマエビ類の抵抗性について分子レベルでの解明を進める。また、クルマエビ類のゲノム中に存在する病原ウイルスWSSVのホモログ遺伝子については、WSSV感染との関係について詳細に解明するための研究を進める。病原微生物と宿主となるクルマエビ類の生体防御・免疫応答についても明らかにするために、クルマエビ類の生体防御に関連すると思われる遺伝子の構造予備機能解析を進める。